地上最強のウイルス
人類は幾度となく戦い続けてきた。勝者は、敗者を従えその国の支配者となった。強大な国が生き残り、もう戦うことをやめてしまった。戦うと全人類が滅びてしまうからだ。残った国がバランスを保って今まで生き残ってきた。
ところが新たな敵が目の前に現れた。地上最強のウイルスだ。今までならワクチンを作って、新薬を開発して打ち勝ってきた。人類は今までのことを経験にして、失敗したことは教訓にして戦おうとしたが、今回はその対策に手立てがなかった。
国同士が「原因はお前の国だ」とののしり合い、国交を断ってしまった。最強のウイルスの登場でもろくの国同士のバランスという言葉は死語となってしまった。自給自足のできる国のサバイバル競争が始まった。
生き残りをかけた国の政策はまちまちだった。何が間違いで正解かなんて誰も知らなかった。答えのわからない未知の世界に、全世界が突入していった。外出禁止や人との非接触を強いられて、仕事もなくなり社会は経済的な大打撃を受けることになった。
「人からの感染はもちろん、動物から人への感染も報告されていますが」
「今日の国会で動物の殺処分法案が決まり、随時実施されていきます」
「今日までの感染者と亡くなられた方の人数を教えてください」
「今この時にも増え続けています。報告を受けて早急に集計いたします」
「今この時点でわかっている数でいいんです」
「だから事態は刻々変化しているので、報告を受けてからということになります」
政治家との記者会見にストレスが溜まっていく。そもそも人類の体は、最強のウイルスの抗体を持つようには作られていなかった。国からの給付金の免疫も薄くなり、もっともっとと国民は給付金を欲しがった。人類は出口が分からず、最強のウイルスと戦っていた。同じように動物たちも戦っていた。
「人間を助けられないのに、動物たちの命を守るのは本末転倒だ」という人もいたが、動物たちに救いの手を差しのべ続けていた人たちがいた。この人たちは、動物たちのワクチンの開発に力を注いでいた。一方で動物から人間に感染することが知られていたので、動物の殺処分の政策がさらに強化されていった。
ある日、犬の中に最強のウイルスに強い犬がいることが分かった。その犬を繁殖させることによって、ほかの動物へも適応できるワクチンや薬を作ることができた。もしや人間にも利用できるのではと思い治験を始めた。結果、ブリーダーたちは小躍りした。
簡単な遺伝子情報を変換することによって、人間にも応用できることが分かった。たちまちワクチンは広まり、新薬も誕生して人類に明るい光が見えた。もしこれで救世主の犬を殺処分していたら、人類は自分で自分の首を絞めたことになっていた。これで犬が近づいてきて顔を舐められても、嫌な顔ができなくなってしまった。
参考:地上最強のウイルス
公演童話
人類は幾度となく戦い続けてきた。勝者は、敗者を従えその国の支配者となった。強大な国が生き残り、もう戦うことをやめてしまった。戦うと全人類が滅びてしまうからだ。残った国がバランスを保って今まで生き残ってきた。
ところが新たな敵が目の前に現れた。地上最強のウイルスだ。今までならワクチンを作って、新薬を開発して打ち勝ってきた。人類は今までのことを経験にして、失敗したことは教訓にして戦おうとしたが、今回はその対策に手立てがなかった。
国同士が「原因はお前の国だ」とののしり合い、国交を断ってしまった。最強のウイルスの登場でもろくの国同士のバランスという言葉は死語となってしまった。自給自足のできる国のサバイバル競争が始まった。
生き残りをかけた国の政策はまちまちだった。何が間違いで正解かなんて誰も知らなかった。答えのわからない未知の世界に、全世界が突入していった。外出禁止や人との非接触を強いられて、仕事もなくなり社会は経済的な大打撃を受けることになった。
「人からの感染はもちろん、動物から人への感染も報告されていますが」
「今日の国会で動物の殺処分法案が決まり、随時実施されていきます」
「今日までの感染者と亡くなられた方の人数を教えてください」
「今この時にも増え続けています。報告を受けて早急に集計いたします」
「今この時点でわかっている数でいいんです」
「だから事態は刻々変化しているので、報告を受けてからということになります」
政治家との記者会見にストレスが溜まっていく。そもそも人類の体は、最強のウイルスの抗体を持つようには作られていなかった。国からの給付金の免疫も薄くなり、もっともっとと国民は給付金を欲しがった。人類は出口が分からず、最強のウイルスと戦っていた。同じように動物たちも戦っていた。
「人間を助けられないのに、動物たちの命を守るのは本末転倒だ」という人もいたが、動物たちに救いの手を差しのべ続けていた人たちがいた。この人たちは、動物たちのワクチンの開発に力を注いでいた。一方で動物から人間に感染することが知られていたので、動物の殺処分の政策がさらに強化されていった。
ある日、犬の中に最強のウイルスに強い犬がいることが分かった。その犬を繁殖させることによって、ほかの動物へも適応できるワクチンや薬を作ることができた。もしや人間にも利用できるのではと思い治験を始めた。結果、ブリーダーたちは小躍りした。
簡単な遺伝子情報を変換することによって、人間にも応用できることが分かった。たちまちワクチンは広まり、新薬も誕生して人類に明るい光が見えた。もしこれで救世主の犬を殺処分していたら、人類は自分で自分の首を絞めたことになっていた。これで犬が近づいてきて顔を舐められても、嫌な顔ができなくなってしまった。
参考:地上最強のウイルス
公演童話