お話し「釣り堀とさくら」
釣り堀のご主人は、傘寿のおじいさん。おじいさんの手伝いをしているのが、犬のさくら。傘じいとさくらは仲良しで、とてもいいコンビでした。
さくらは釣り堀のお客さんとも仲良しいで、みんなさくらのことが好きでした。
釣り堀は、本当の池を釣り堀にしたものでした。お客さんは、池の周りに腰をかけて釣り糸を垂らします。
「さくら!」とお客さんが呼びます。
さくらは、その声を聞きつけて、手提げの籠をくわえて、お客さんのところに駆けつけます。籠には紙と鉛筆が入っていて、お客さんはその紙にほしいものを書きます。
『おにぎり二つ』というように。
さくらは、それを傘じいのとこまで持ち帰り、おにぎりをお客さんに届けます。お客さんは籠に代金を入れて、引き換えにおにぎりを受け取ります。さくらは釣り堀の立派な従業員です。
「さくら!」と今日もお客さんが呼びます。
行って帰って来ると、
「ちょっくら行ってくれるか」と傘じいは言いました。
メモには『メロンパンひとつ』と書いてありました。
釣り堀の売店には、パンはアンパンぐらいで、メロンパンは置いていませんでした。それで近所のパン屋さんまで、さくらがお使いをしなければなりませんでした。さくらは、メモを入れた籠をくわえ、近所のパン屋さんまで走りました。
パン屋さんは、いつものことと対応します。メロンパンと料金を書いたメモをさくらに返します。パン屋さんの料金は、一日の終わりに、傘じいがまとめて払います。
こんな風に傘じいとさくらのコンビは、釣り堀をやりくりしていました。
「さくら!」とまたお客さんの声がします。
籠の中には『バナナ1本』とありました。
いつもならあるのですが、あいにく切らしていました。
傘じいはお客さんのところに行くと、
「今バナナは切らしていて、さくらにお使いしてもらうから」
「そうかい。頼んだよ」
傘じいは、
「八百屋に行って、バナナを1本もらってきておくれ」
とさくらにお使いを頼みました。
ところがさくらは、10分待っても15分待っても戻ってきません。
傘じいは、八百屋に電話をして確かめました。そうすると店の前で車にはねられたとのこと。傘じいは急ぎ、さくらが運ばれた病院に飛んでいきました。駆けつけたときには、さくらは、もう息をしていませんでした。傘じいは、声をふるわして泣きました。さくらの体はまだあたたかでした。
その後、傘じいは、釣り堀を再開できませんでした。
とうとう釣り堀は人に売ってしまいました。
しかし、その釣り堀は長く続かず、閉めてしまいました。その後、釣り堀は埋められて公園になりました。しかし公園にはまだ名前がありませんでした。町の公報で募集されました。
たくさんの応募があり、そのすべてが『さくら公園』でした。公園にはたくさんの桜の木が植えられ、毎年春には、花見がされるほどにぎわいました。そこに集う何人かの人は、知っていました。なぜこの公園が、『さくら公園』と呼ばれるようになったのかを。
傘じいの手の中に、ひとひら花びらが潜り込んできました。
参考:お話し「釣り堀とさくら」 ビタミンは必要不可欠
釣り堀のご主人は、傘寿のおじいさん。おじいさんの手伝いをしているのが、犬のさくら。傘じいとさくらは仲良しで、とてもいいコンビでした。
さくらは釣り堀のお客さんとも仲良しいで、みんなさくらのことが好きでした。
釣り堀は、本当の池を釣り堀にしたものでした。お客さんは、池の周りに腰をかけて釣り糸を垂らします。
「さくら!」とお客さんが呼びます。
さくらは、その声を聞きつけて、手提げの籠をくわえて、お客さんのところに駆けつけます。籠には紙と鉛筆が入っていて、お客さんはその紙にほしいものを書きます。
『おにぎり二つ』というように。
さくらは、それを傘じいのとこまで持ち帰り、おにぎりをお客さんに届けます。お客さんは籠に代金を入れて、引き換えにおにぎりを受け取ります。さくらは釣り堀の立派な従業員です。
「さくら!」と今日もお客さんが呼びます。
行って帰って来ると、
「ちょっくら行ってくれるか」と傘じいは言いました。
メモには『メロンパンひとつ』と書いてありました。
釣り堀の売店には、パンはアンパンぐらいで、メロンパンは置いていませんでした。それで近所のパン屋さんまで、さくらがお使いをしなければなりませんでした。さくらは、メモを入れた籠をくわえ、近所のパン屋さんまで走りました。
パン屋さんは、いつものことと対応します。メロンパンと料金を書いたメモをさくらに返します。パン屋さんの料金は、一日の終わりに、傘じいがまとめて払います。
こんな風に傘じいとさくらのコンビは、釣り堀をやりくりしていました。
「さくら!」とまたお客さんの声がします。
籠の中には『バナナ1本』とありました。
いつもならあるのですが、あいにく切らしていました。
傘じいはお客さんのところに行くと、
「今バナナは切らしていて、さくらにお使いしてもらうから」
「そうかい。頼んだよ」
傘じいは、
「八百屋に行って、バナナを1本もらってきておくれ」
とさくらにお使いを頼みました。
ところがさくらは、10分待っても15分待っても戻ってきません。
傘じいは、八百屋に電話をして確かめました。そうすると店の前で車にはねられたとのこと。傘じいは急ぎ、さくらが運ばれた病院に飛んでいきました。駆けつけたときには、さくらは、もう息をしていませんでした。傘じいは、声をふるわして泣きました。さくらの体はまだあたたかでした。
その後、傘じいは、釣り堀を再開できませんでした。
とうとう釣り堀は人に売ってしまいました。
しかし、その釣り堀は長く続かず、閉めてしまいました。その後、釣り堀は埋められて公園になりました。しかし公園にはまだ名前がありませんでした。町の公報で募集されました。
たくさんの応募があり、そのすべてが『さくら公園』でした。公園にはたくさんの桜の木が植えられ、毎年春には、花見がされるほどにぎわいました。そこに集う何人かの人は、知っていました。なぜこの公園が、『さくら公園』と呼ばれるようになったのかを。
傘じいの手の中に、ひとひら花びらが潜り込んできました。
参考:お話し「釣り堀とさくら」 ビタミンは必要不可欠