口演童話「101匹、いっちゃん」
ぼくはメダカのいっちゃんです。ぼくのとなりにいるのは、にいちゃんです。そのまたとなりにいるのは、さんちゃんです。川をのぼってきた三人です。三人でここまでやってきたわけではありません。101匹で最初はやってきたのです。みんなとちゅうでカメにやられてしまったのです。カメというのはどうもうで、のろまのように見えても水の中ではすばやく動き回るのです。ねらわれたら最後、逃げおおせることはできません。みんなカメのいぶくろの中です。
カメの腹はかたいこうらですから、カメが腹ぺこかどうかわかりません。死んだ仲間たちは、カメのかたい体になって、カメをより強いものにしてしまいます。カメと戦っているようで、ゆうかんだった兄弟たちと戦っているようで、自分もカメのこうらになってやろうかとさえ思います。そのほうが強くなって、仲間といっしょにおれるような気がするからです。
「今度カメのやつ来たら、三人とも食べられてしまう。もういっそ食べられて、仲間のところに行こうか」
「何を弱気なことを言っているんだ。にいちゃんも目の前で仲間が食べられるところを見ただろう。くやしくないのか」
「そうは言っても、カメにかなうわけないよ。新池にたどり着く自信がないよ。いっちゃんはどう思う」
「ぼくらははじめ101匹だった。でもみるみるうちに三人になった。にいちゃんのいう通り新池に着く自信はない。でもカメのいぶくろに入るのもいやだ」
三人の後ろからごぼろごぼろという音が近づいてきた。カメだ。ドロのけむりたててきょうふが近づいてくる。弱音をはいていたにいちゃんも、きりりと気がひきしまりみんな一直線に川上に泳ぎだした。
三人はカメのついせきをふりほどこうと水草の間をすばやく進んだ。だけど、カメはそれをしょうちしていた。ふくろこうじにはいりこみ、逃げ場がなくなるのをうかがっていた。カメには水草なんかじゃまにならなかった。するどい爪でちぎっては後に投げ飛ばせば、しかいが開けてこうつごうだった。逃げているようでもみんな先が見えていた。
「次が勝負だ。にいちゃんとさんちゃんは、右を行け、ぼくは左だ」
右には太い木があって勢いよくカメも泳げない。左には何もない。でも大きな岩のかげが少し見えていた。いっちゃんはそのかげにかけてみた。こうして今までも、二手に別れ逃げてきた。
カメは木の根が入り組んだところはさけ、左のいっちゃんの方に向きを変えた。
「よし!」
いっちゃんは岩を背にして、かくごした。
「いただくとするか、・・ああ」
いっちゃんはカメが来るぎりぎりまでまって、急に岩の後に回りこんだ。カメは目の前のごちそうを1点だけ見つめてとっしんしてきたものだから、急には方向を変えられず、したたか岩に頭からつっこんだ。カメは頭だけは体にひっこめて、岩にぶつけることはなかった。だけど肩をぶつけて、肩がかけてしまった。よろいのような体でもこわれるときはこわれるものです。
「たった三匹で、よく逃げるものだ。さすが101匹の中の三匹だ。だが幸運も長くは続くものか」
カメがそう思ったとき、大きな影が川上からやってきました。今まで戦ってきたカメよりもっと大きなカメでした。
「ここからさきは俺の縄張りだ。もうお前は十分腹を満たしただろう」
カメは、自分より大きなカメに驚き、そそくさと川下に帰っていきました。いっちゃんたちは、もうこれまでかと観念しました。せっかく命のバトンタッチをしてきた三匹です。やっとたどり着いた新天地は、三匹にとって絶望の地でした。
「こんなことになるなら、みんながいたときの方が、カメと戦っていたときの方が怖かったが、幸せだった気がする」
そういっちゃんが言うと、目の前の大きなカメが、蜘蛛の子を散らすようにばらばらになり、三匹の周りを取り囲みました。三匹は、大きなカメに飲み込まれたのだと思いました。
「ぼくたちは仲間だよ」
そんな声があちこちから聞こえました。それは新池にいるメダカたちでした。大きなカメに変身して、カメから三匹を救ったのでした。
三匹は安心したと同時に、今まで戦って命を落とした仲間たちに報いようと、これからも生き続けようと決心しました。
参考:口演童話「101匹、いっちゃん」
口演童話
ぼくはメダカのいっちゃんです。ぼくのとなりにいるのは、にいちゃんです。そのまたとなりにいるのは、さんちゃんです。川をのぼってきた三人です。三人でここまでやってきたわけではありません。101匹で最初はやってきたのです。みんなとちゅうでカメにやられてしまったのです。カメというのはどうもうで、のろまのように見えても水の中ではすばやく動き回るのです。ねらわれたら最後、逃げおおせることはできません。みんなカメのいぶくろの中です。
カメの腹はかたいこうらですから、カメが腹ぺこかどうかわかりません。死んだ仲間たちは、カメのかたい体になって、カメをより強いものにしてしまいます。カメと戦っているようで、ゆうかんだった兄弟たちと戦っているようで、自分もカメのこうらになってやろうかとさえ思います。そのほうが強くなって、仲間といっしょにおれるような気がするからです。
「今度カメのやつ来たら、三人とも食べられてしまう。もういっそ食べられて、仲間のところに行こうか」
「何を弱気なことを言っているんだ。にいちゃんも目の前で仲間が食べられるところを見ただろう。くやしくないのか」
「そうは言っても、カメにかなうわけないよ。新池にたどり着く自信がないよ。いっちゃんはどう思う」
「ぼくらははじめ101匹だった。でもみるみるうちに三人になった。にいちゃんのいう通り新池に着く自信はない。でもカメのいぶくろに入るのもいやだ」
三人の後ろからごぼろごぼろという音が近づいてきた。カメだ。ドロのけむりたててきょうふが近づいてくる。弱音をはいていたにいちゃんも、きりりと気がひきしまりみんな一直線に川上に泳ぎだした。
三人はカメのついせきをふりほどこうと水草の間をすばやく進んだ。だけど、カメはそれをしょうちしていた。ふくろこうじにはいりこみ、逃げ場がなくなるのをうかがっていた。カメには水草なんかじゃまにならなかった。するどい爪でちぎっては後に投げ飛ばせば、しかいが開けてこうつごうだった。逃げているようでもみんな先が見えていた。
「次が勝負だ。にいちゃんとさんちゃんは、右を行け、ぼくは左だ」
右には太い木があって勢いよくカメも泳げない。左には何もない。でも大きな岩のかげが少し見えていた。いっちゃんはそのかげにかけてみた。こうして今までも、二手に別れ逃げてきた。
カメは木の根が入り組んだところはさけ、左のいっちゃんの方に向きを変えた。
「よし!」
いっちゃんは岩を背にして、かくごした。
「いただくとするか、・・ああ」
いっちゃんはカメが来るぎりぎりまでまって、急に岩の後に回りこんだ。カメは目の前のごちそうを1点だけ見つめてとっしんしてきたものだから、急には方向を変えられず、したたか岩に頭からつっこんだ。カメは頭だけは体にひっこめて、岩にぶつけることはなかった。だけど肩をぶつけて、肩がかけてしまった。よろいのような体でもこわれるときはこわれるものです。
「たった三匹で、よく逃げるものだ。さすが101匹の中の三匹だ。だが幸運も長くは続くものか」
カメがそう思ったとき、大きな影が川上からやってきました。今まで戦ってきたカメよりもっと大きなカメでした。
「ここからさきは俺の縄張りだ。もうお前は十分腹を満たしただろう」
カメは、自分より大きなカメに驚き、そそくさと川下に帰っていきました。いっちゃんたちは、もうこれまでかと観念しました。せっかく命のバトンタッチをしてきた三匹です。やっとたどり着いた新天地は、三匹にとって絶望の地でした。
「こんなことになるなら、みんながいたときの方が、カメと戦っていたときの方が怖かったが、幸せだった気がする」
そういっちゃんが言うと、目の前の大きなカメが、蜘蛛の子を散らすようにばらばらになり、三匹の周りを取り囲みました。三匹は、大きなカメに飲み込まれたのだと思いました。
「ぼくたちは仲間だよ」
そんな声があちこちから聞こえました。それは新池にいるメダカたちでした。大きなカメに変身して、カメから三匹を救ったのでした。
三匹は安心したと同時に、今まで戦って命を落とした仲間たちに報いようと、これからも生き続けようと決心しました。
参考:口演童話「101匹、いっちゃん」
口演童話