体験 「恐怖パズル」
国道42号線のあるトンネルでは、あまりに事故が多いので、地元では「死に号線トンネル」と呼んでいる。事故が多いと言うのは語弊がある。事件が多いのである。毎年夏になると地元紙に見出しが躍る。
「今年もやってきました。死に号線トンネルの恐怖! 謎が謎を生み、恐怖パズルを解き明かすのは誰?」
別に恐怖でも何でもないのだが、記事がないから面白おかしく新聞社が捏造していると言う。投稿欄に載るのがうれしいから、薄謝がもらえるからと見もしないことをでっち上げるドライバーもいると言う。しかし、その記事の中には真実の恐怖が隠されている。どれが真実かは、真夏の夜の恐怖パズルを解くしかない。
その日の最終電車が駅に着いた。駅前ではいつものようにタクシーが客を待っていた。これが今夏の事件の始まりだ。タクシーが一人の女性を乗せた。もう電車を乗り継げないので、一駅だけタクシーを走らせてほしいと言う。ここまではごく普通の情景だ。次の駅までには峠があり、そこには200mほどのトンネルがある。
その女性は、色白でどことなく気弱そうで、病み上がりかなと思われるほどやせていた。まるで幽霊でも乗せているように、静寂が車内を支配していた。トンネルに入ったとき、運転手はルームミラーで後ろを見た。女性は疲れたように目を伏せていた。
「お仕事の帰りですか? こんなに夜遅くまで大変ですね」
「ええ」
か細い声が返ってきた。幽霊ではなさそうだ。
「次の駅までということですが、自宅じゃなくて駅でいいんですね? ・・・」
返事がない。ルームミラーを見たが、女性が映っていない。シートに横になったのかと思い、ミラーを下に向けたが見当たらない。運転手は、急ブレーキを踏んだがすぐさまスピードを上げて、トンネルを駆け抜けた。ハンドルを持つ手ががちがち震えた。車の天井に女性が乗っかっていて、目の前に顔なんぞ下ろさないでくれと祈った。深夜ラジオのボリュームをいっぱいに上げた。流れてきたのはビートルズのイエスタディ。いくらスピードを上げても、ゆっくり走っているように思えた。やがて駅に着き、急停車した。
「え、駅に着きましたよ」
平常心を装い一応声をかけ、ドアもあけたが、もちろん誰も降りるけはいはない。そーと後ろを振り向くと、シートが濡れていた。今起きた出来事が、まるで昨日のごとく過ぎていくのを感じた。
「今年の第一号は、このわしか・・・。オーマイゴーッ。サンキューヴェリマチョ!」
タクシー運転手は、恐怖体験をしたのにもかかわらず、うれしさがこみ上げてきた。
さっそく地元の新聞記者が取材にやってきて、記事になった。
「昨夜、タクシー運転手A氏(59歳)が、最終電車から降りてきた一人の女性を乗せたところ、恒例の幽霊だということが判明しました。運転手は老後の蓄えが出来そうだと、うれしい悲鳴を上げております。当社でも今夏この幸運を手にする人が、何人でるか楽しみです。また、随時その後の経過も本紙でも取り上げていきたいと思っております。果たしてこの幽霊が誰なのか、今後も謎は深まるばかりですが、この謎を解き明かした者は、最高の幸運を手にするかもしれないという予想もあります。あなたも今年の夏、恐怖パズルを解いて夢を叶えてみてはいかがでしょうか?」
一ヵ月後、タクシー運転手A氏は、サマージャンボ宝くじの高額当選者になった。
補足:
国道42号線が、和歌山市からどこ(浜松市)まで行くのかは知らない。バイクで新宮まで走ったことがあるが、その先の伊勢ぐらいまでだろうか。トンネルを抜けると、後ろのシートが本当に濡れることがある。天井からしずくが落ちるのである。車だと、屋根に誰かが乗っていて、指先でこつこつ叩く音がする。
参考動画:恐怖体験「恐怖パズル」
恐怖体験
国道42号線のあるトンネルでは、あまりに事故が多いので、地元では「死に号線トンネル」と呼んでいる。事故が多いと言うのは語弊がある。事件が多いのである。毎年夏になると地元紙に見出しが躍る。
「今年もやってきました。死に号線トンネルの恐怖! 謎が謎を生み、恐怖パズルを解き明かすのは誰?」
別に恐怖でも何でもないのだが、記事がないから面白おかしく新聞社が捏造していると言う。投稿欄に載るのがうれしいから、薄謝がもらえるからと見もしないことをでっち上げるドライバーもいると言う。しかし、その記事の中には真実の恐怖が隠されている。どれが真実かは、真夏の夜の恐怖パズルを解くしかない。
その日の最終電車が駅に着いた。駅前ではいつものようにタクシーが客を待っていた。これが今夏の事件の始まりだ。タクシーが一人の女性を乗せた。もう電車を乗り継げないので、一駅だけタクシーを走らせてほしいと言う。ここまではごく普通の情景だ。次の駅までには峠があり、そこには200mほどのトンネルがある。
その女性は、色白でどことなく気弱そうで、病み上がりかなと思われるほどやせていた。まるで幽霊でも乗せているように、静寂が車内を支配していた。トンネルに入ったとき、運転手はルームミラーで後ろを見た。女性は疲れたように目を伏せていた。
「お仕事の帰りですか? こんなに夜遅くまで大変ですね」
「ええ」
か細い声が返ってきた。幽霊ではなさそうだ。
「次の駅までということですが、自宅じゃなくて駅でいいんですね? ・・・」
返事がない。ルームミラーを見たが、女性が映っていない。シートに横になったのかと思い、ミラーを下に向けたが見当たらない。運転手は、急ブレーキを踏んだがすぐさまスピードを上げて、トンネルを駆け抜けた。ハンドルを持つ手ががちがち震えた。車の天井に女性が乗っかっていて、目の前に顔なんぞ下ろさないでくれと祈った。深夜ラジオのボリュームをいっぱいに上げた。流れてきたのはビートルズのイエスタディ。いくらスピードを上げても、ゆっくり走っているように思えた。やがて駅に着き、急停車した。
「え、駅に着きましたよ」
平常心を装い一応声をかけ、ドアもあけたが、もちろん誰も降りるけはいはない。そーと後ろを振り向くと、シートが濡れていた。今起きた出来事が、まるで昨日のごとく過ぎていくのを感じた。
「今年の第一号は、このわしか・・・。オーマイゴーッ。サンキューヴェリマチョ!」
タクシー運転手は、恐怖体験をしたのにもかかわらず、うれしさがこみ上げてきた。
さっそく地元の新聞記者が取材にやってきて、記事になった。
「昨夜、タクシー運転手A氏(59歳)が、最終電車から降りてきた一人の女性を乗せたところ、恒例の幽霊だということが判明しました。運転手は老後の蓄えが出来そうだと、うれしい悲鳴を上げております。当社でも今夏この幸運を手にする人が、何人でるか楽しみです。また、随時その後の経過も本紙でも取り上げていきたいと思っております。果たしてこの幽霊が誰なのか、今後も謎は深まるばかりですが、この謎を解き明かした者は、最高の幸運を手にするかもしれないという予想もあります。あなたも今年の夏、恐怖パズルを解いて夢を叶えてみてはいかがでしょうか?」
一ヵ月後、タクシー運転手A氏は、サマージャンボ宝くじの高額当選者になった。
補足:
国道42号線が、和歌山市からどこ(浜松市)まで行くのかは知らない。バイクで新宮まで走ったことがあるが、その先の伊勢ぐらいまでだろうか。トンネルを抜けると、後ろのシートが本当に濡れることがある。天井からしずくが落ちるのである。車だと、屋根に誰かが乗っていて、指先でこつこつ叩く音がする。
参考動画:恐怖体験「恐怖パズル」
恐怖体験
アニメ「千と千尋の神隠し」
監督: 宮崎駿
時間: 124 分
ひ弱で不機嫌な少女、千尋は現代に生きる普通の女の子。両親とともに車で引っ越し先の家へと向かう途中で「不思議の町」に迷い込んだ。店のカウンターにあった料理を勝手に食べた両親は、豚に姿を変えられてしまう。ひとりぼっちになってしまった千尋は、名を奪われ「千」と呼ばれるようになり、その町を支配する魔女・湯婆婆の下で働き始める。千尋は湯屋「油屋」の下働きとして働きながら、様々な出来事に遭遇しつつも、謎の少年ハクや先輩のリン、釜爺らの助けを借りて、厳しい難局に立ち向かっていく。はたして千尋は元の世界に帰れるのか……?
監督: 宮崎駿
時間: 124 分
ひ弱で不機嫌な少女、千尋は現代に生きる普通の女の子。両親とともに車で引っ越し先の家へと向かう途中で「不思議の町」に迷い込んだ。店のカウンターにあった料理を勝手に食べた両親は、豚に姿を変えられてしまう。ひとりぼっちになってしまった千尋は、名を奪われ「千」と呼ばれるようになり、その町を支配する魔女・湯婆婆の下で働き始める。千尋は湯屋「油屋」の下働きとして働きながら、様々な出来事に遭遇しつつも、謎の少年ハクや先輩のリン、釜爺らの助けを借りて、厳しい難局に立ち向かっていく。はたして千尋は元の世界に帰れるのか……?