口演童話「漫画家の卵」
明日への希望を持ち続けている二人の男がいました。二人はまだ売れない漫画家の卵でしたが、いつかその卵の殻を破って独り立ちできる日を夢見ていました。
ある日、二人で土手を歩いていると、何とも不思議なことに、二羽のにわとりが二人の後をついてきました。にわとりの一羽はおんどりで、もう一羽はめんどりでした。男の一人は、きっと腹が空いていたのでしょう。めんどりなら卵を産んでくれると思い、さっさとめんどりを抱きかかえて自分の家に帰りました。仕方なくもう一人の男の方は、おんどりを持って帰りました。
めんどりを持ち帰った男は、めんどりが毎日卵を一個産んでくれるおかげで、毎日何とか腹を満たすことが出来ました。だけど、漫画の仕事の方はいっこうに入ってくるけはいはありませんでした。
一方、おんどりを持ち帰った男は、おんどりを見てはその絵を描く日々が続きました。腹はへるし、仕事は入ってこないしと、全く人生に見放されたようです。
ところが、ある日おんどりの絵を見た編集長が、次の週刊漫画の特別号の表紙にその絵を使いたいと言いました。それから数日後、特別号の表紙の評判が良かったので、今度はストーリーのある漫画を描いてみないかと言われました。ひとつひとつ輪が広がるように、おんどりを持ち帰った男に仕事が舞い込んできました。それで、やっとおんどりを持ち帰った男は腹を満たすことが出来るようになりました。
そのことを知っためんどりを持った男が、半ば強引に鳥を交換しようと言ってきました。おんどりを持っていた男は、仕方なくめんどりと交換することにしました。
おんどりを手に入れた男は、自分も仕事にありつこうと思い、おんどりの絵を描いて編集長のところに持っていきました。
「おんどりの絵は、もう読者には受けない。それに、人のまねをしても仕方のないこと」
編集長は男にそう言って、全く相手にしませんでした。
一方、今度はめんどりを手に入れた男は、めんどりと卵の絵を描きはじめました。
「うーん。これはすごい。にわとりが先か卵が先かという人類の命題が、一枚の絵にみごとに凝縮されている」
編集長は、ピカソの絵のような顔をして、感嘆しました。
「今度、卵をテーマにした特集を組もうと考えていたところだ。どうだい、卵とめんどりをからめて、もっと何か描いてみないか?」
めんどりを持った男の夢はどんどん形になっていき、男は新しい目標や希望も持てて、仕事も楽しくなっていきました。
おんどりを手に入れた男は焦りました。焦れば焦るほど、幸運の針は逆に回っていくばかりでした。
「もとをただせば、めんどりは俺のもの。もう一度、交換だ!」と、男は今度も強引に鳥の交換をせまりました。
そして、更にまくしたてるように、こう言いました。
「特集を組んでもらったからって、いい気になるなよ。めんどりと卵を描かせたら俺が一番だ。こうなったら、一度どちらが本当に絵がうまいのか勝負しよう」
「君と競争するために、僕は絵を描いているのではないんだよ。でも納得がいかないのなら、今夜二人が描いた絵を編集長のところに持って行って、君の絵と僕の絵のどこが違うのか、一度見てもらおうじゃないか。明日の朝には、その答えがはっきりするだろう」
めんどりを持った男は、今夜が人生最後の大勝負だと思い、力の限りめんどりと卵の絵を描きました。もともとは絵がうまいのですから、勝負をかけた絵はもちろん見事な絵でした。本物のめんどりと卵とを見間違えるほどのできばえでした。
おんどりをもう一度持つことになった男は、手元にめんどりと卵がないもので、想像して描くことにしました。すると、頭には今まで誰も見たこともないようなめんどりと卵の姿が浮かんできました。男は自分の見たり感じたりしたことを素直に絵にしました。
突然、おんどりが鳴く声で、おんどりを持った男は目を覚ましました。編集長との約束の時間まで間がありません。一晩中かけて描いた絵を抱えて、あわてて家を飛び出しました。
一方、めんどりを持った男は、約束の時間になっても編集長のところに姿を現しませんでした。男はまだ家で寝ていて、夢の中で自分の絵を見て満足していました。
参考:口演童話「漫画家の卵」
10年メシが食える漫画家入門
●「マジンガーZ」の永井豪氏
「ナイス!!これを知ってりゃ、マンガ家デビューは3年早くなる」
●「ふたりエッチ」の克・亜樹氏
「これは漫画を考えるための謎解きパズルだ!!」
●「Spirit of Wonder」の鶴田謙二氏
「大きな壁が現れ、自分が穴の底にいることに気付いたときには、このマル秘極意書を」
●「死化粧師」の三原ミツカズ氏
「え、こんなところまで教えちゃっていいんですか?」
口演童話
明日への希望を持ち続けている二人の男がいました。二人はまだ売れない漫画家の卵でしたが、いつかその卵の殻を破って独り立ちできる日を夢見ていました。
ある日、二人で土手を歩いていると、何とも不思議なことに、二羽のにわとりが二人の後をついてきました。にわとりの一羽はおんどりで、もう一羽はめんどりでした。男の一人は、きっと腹が空いていたのでしょう。めんどりなら卵を産んでくれると思い、さっさとめんどりを抱きかかえて自分の家に帰りました。仕方なくもう一人の男の方は、おんどりを持って帰りました。
めんどりを持ち帰った男は、めんどりが毎日卵を一個産んでくれるおかげで、毎日何とか腹を満たすことが出来ました。だけど、漫画の仕事の方はいっこうに入ってくるけはいはありませんでした。
一方、おんどりを持ち帰った男は、おんどりを見てはその絵を描く日々が続きました。腹はへるし、仕事は入ってこないしと、全く人生に見放されたようです。
ところが、ある日おんどりの絵を見た編集長が、次の週刊漫画の特別号の表紙にその絵を使いたいと言いました。それから数日後、特別号の表紙の評判が良かったので、今度はストーリーのある漫画を描いてみないかと言われました。ひとつひとつ輪が広がるように、おんどりを持ち帰った男に仕事が舞い込んできました。それで、やっとおんどりを持ち帰った男は腹を満たすことが出来るようになりました。
そのことを知っためんどりを持った男が、半ば強引に鳥を交換しようと言ってきました。おんどりを持っていた男は、仕方なくめんどりと交換することにしました。
おんどりを手に入れた男は、自分も仕事にありつこうと思い、おんどりの絵を描いて編集長のところに持っていきました。
「おんどりの絵は、もう読者には受けない。それに、人のまねをしても仕方のないこと」
編集長は男にそう言って、全く相手にしませんでした。
一方、今度はめんどりを手に入れた男は、めんどりと卵の絵を描きはじめました。
「うーん。これはすごい。にわとりが先か卵が先かという人類の命題が、一枚の絵にみごとに凝縮されている」
編集長は、ピカソの絵のような顔をして、感嘆しました。
「今度、卵をテーマにした特集を組もうと考えていたところだ。どうだい、卵とめんどりをからめて、もっと何か描いてみないか?」
めんどりを持った男の夢はどんどん形になっていき、男は新しい目標や希望も持てて、仕事も楽しくなっていきました。
おんどりを手に入れた男は焦りました。焦れば焦るほど、幸運の針は逆に回っていくばかりでした。
「もとをただせば、めんどりは俺のもの。もう一度、交換だ!」と、男は今度も強引に鳥の交換をせまりました。
そして、更にまくしたてるように、こう言いました。
「特集を組んでもらったからって、いい気になるなよ。めんどりと卵を描かせたら俺が一番だ。こうなったら、一度どちらが本当に絵がうまいのか勝負しよう」
「君と競争するために、僕は絵を描いているのではないんだよ。でも納得がいかないのなら、今夜二人が描いた絵を編集長のところに持って行って、君の絵と僕の絵のどこが違うのか、一度見てもらおうじゃないか。明日の朝には、その答えがはっきりするだろう」
めんどりを持った男は、今夜が人生最後の大勝負だと思い、力の限りめんどりと卵の絵を描きました。もともとは絵がうまいのですから、勝負をかけた絵はもちろん見事な絵でした。本物のめんどりと卵とを見間違えるほどのできばえでした。
おんどりをもう一度持つことになった男は、手元にめんどりと卵がないもので、想像して描くことにしました。すると、頭には今まで誰も見たこともないようなめんどりと卵の姿が浮かんできました。男は自分の見たり感じたりしたことを素直に絵にしました。
突然、おんどりが鳴く声で、おんどりを持った男は目を覚ましました。編集長との約束の時間まで間がありません。一晩中かけて描いた絵を抱えて、あわてて家を飛び出しました。
一方、めんどりを持った男は、約束の時間になっても編集長のところに姿を現しませんでした。男はまだ家で寝ていて、夢の中で自分の絵を見て満足していました。
参考:口演童話「漫画家の卵」
10年メシが食える漫画家入門
●「マジンガーZ」の永井豪氏
「ナイス!!これを知ってりゃ、マンガ家デビューは3年早くなる」
●「ふたりエッチ」の克・亜樹氏
「これは漫画を考えるための謎解きパズルだ!!」
●「Spirit of Wonder」の鶴田謙二氏
「大きな壁が現れ、自分が穴の底にいることに気付いたときには、このマル秘極意書を」
●「死化粧師」の三原ミツカズ氏
「え、こんなところまで教えちゃっていいんですか?」
口演童話