怖体験 「死線ホーム」
その駅のプラットホームは四つあり、一、二番線が上りで、三、四番線が下りだ。一、三番線は各駅列車が止まり、二、四番線が急行列車のホームだ。走る電車に飛び込み、自らの命を絶ってしまう者がいるが、はたしてこの駅でそれがあったのかどうかは分からない。しかし、この駅で女の霊を目撃したという証言は多い・・・? その多くは深夜、終電が過ぎ去ったあと。ところで、女子高校生の大西里美(仮名:十七歳)が、その女性を見たのは早朝だったという。したがって目撃談の霊ではないのかもしれない。
夏休みのこと。その日、彼女はブラスバンド部の朝練があったため、普段より早く起きて家を出た。駅に着いたのは六時少し前。何やら四番線ホームが賑わっている。里美は自分がいる一番線から、その賑わいに目をやった。
「気をつけていけよ!」
「お土産、待っているわね」
若いカップルを取り囲んで、数人の友人らで賑わっている。どうも、聞こえてくる内容からすると、昨日結婚式があり、これからそのカップルが新婚旅行に立つようだ。
「新しい門出にしちゃ、四番線ホームとは縁起が悪いなあ」
「略したら、四線(死線)ホームね」
「おいおい、俺たちを勝手に死出の旅に送るなよ」
「ほんとにみんなひどいわ。私たちの幸せをやいているのね。もうお土産、期待しないでね」
里美はそんな光景を目にして、いつか自分の未来にも、そんな日々が来るのではないかと想像した。マーチングバンドがホームを占拠して、高らかに門出する自分と未来の婚約者が、手をつないで列車に乗り込む姿を。
そのとき不意に、カップルの友人の一人が里美の方を振り向いた。急にすべての音が消えて、寂しい冷ややかな女の目が里美を固まらせた。赤いワンピースのその女は、こちらにおいでと里美を手招きした。自然と里美の足は一歩前に踏み出され、また一歩と歩きはじめた。その時だ。二番線を回送電車が猛スピードで通過したのは。里美は風圧に吹き飛ばされ、スカートがまくれ上がり、その場にひっくり返ってしまった。
「え? 私はいったい、今、何を、・・」
里美は、自分が何をしようとしたのか、その結果を思い浮かべて愕然とした。あと一歩二歩のところで回送電車によって、無残にも自分の体が、将来の夢や希望が、木っ端微塵に散ったに違いなかった。まるで催眠術をかけるかのように手招きした女を、里美は殺したいくらい憎らしく思った。
回送電車が過ぎて、里美は気を取り直して立ち上がった。
「もう、あの女ときたら!」
四番線ホームを見たが、赤いワンピースの女はいなかった。走り出す列車に乗り込んだ若いカップルに手を振る数人の若者たちがいるだけだった。
実は数年前に、こんな話しがあった。この駅ではないが、四番線ホームで新婚旅行の旅に出ようとしていたカップルが、友人たちに祝福されて列車が来るのを待っていた。わいわいがやがや楽しくはしゃいでいたときだ。不幸にもはずみで新婦がホーム下に落ちてしまった。ちょうどその時回送電車が通過して、赤いワンピースの新婦は帰らぬ人となった。ワンピースの切れ端が、風に舞って四番線ホームをさまよった。以来赤いワンピースの亡霊は、列車を乗り継いで全国の四番線プラットホームに、自分のワンピースの切れ端を探しにやってくるのだという。
若いカップルを乗せた電車はスピードを増して、だんだん駅から離れて行く。友人たちは、にこやかに大きく手を振っている。そして電車の最後尾が見えた時、赤いワンピースの女がドアのところに立っているのを、里美は見た。女は、里美を見て微笑んだ。里美は後ろ向きになり、力いっぱい目を閉じた。
音声動画:恐怖体験「死線ホーム」
恐怖体験
その駅のプラットホームは四つあり、一、二番線が上りで、三、四番線が下りだ。一、三番線は各駅列車が止まり、二、四番線が急行列車のホームだ。走る電車に飛び込み、自らの命を絶ってしまう者がいるが、はたしてこの駅でそれがあったのかどうかは分からない。しかし、この駅で女の霊を目撃したという証言は多い・・・? その多くは深夜、終電が過ぎ去ったあと。ところで、女子高校生の大西里美(仮名:十七歳)が、その女性を見たのは早朝だったという。したがって目撃談の霊ではないのかもしれない。
夏休みのこと。その日、彼女はブラスバンド部の朝練があったため、普段より早く起きて家を出た。駅に着いたのは六時少し前。何やら四番線ホームが賑わっている。里美は自分がいる一番線から、その賑わいに目をやった。
「気をつけていけよ!」
「お土産、待っているわね」
若いカップルを取り囲んで、数人の友人らで賑わっている。どうも、聞こえてくる内容からすると、昨日結婚式があり、これからそのカップルが新婚旅行に立つようだ。
「新しい門出にしちゃ、四番線ホームとは縁起が悪いなあ」
「略したら、四線(死線)ホームね」
「おいおい、俺たちを勝手に死出の旅に送るなよ」
「ほんとにみんなひどいわ。私たちの幸せをやいているのね。もうお土産、期待しないでね」
里美はそんな光景を目にして、いつか自分の未来にも、そんな日々が来るのではないかと想像した。マーチングバンドがホームを占拠して、高らかに門出する自分と未来の婚約者が、手をつないで列車に乗り込む姿を。
そのとき不意に、カップルの友人の一人が里美の方を振り向いた。急にすべての音が消えて、寂しい冷ややかな女の目が里美を固まらせた。赤いワンピースのその女は、こちらにおいでと里美を手招きした。自然と里美の足は一歩前に踏み出され、また一歩と歩きはじめた。その時だ。二番線を回送電車が猛スピードで通過したのは。里美は風圧に吹き飛ばされ、スカートがまくれ上がり、その場にひっくり返ってしまった。
「え? 私はいったい、今、何を、・・」
里美は、自分が何をしようとしたのか、その結果を思い浮かべて愕然とした。あと一歩二歩のところで回送電車によって、無残にも自分の体が、将来の夢や希望が、木っ端微塵に散ったに違いなかった。まるで催眠術をかけるかのように手招きした女を、里美は殺したいくらい憎らしく思った。
回送電車が過ぎて、里美は気を取り直して立ち上がった。
「もう、あの女ときたら!」
四番線ホームを見たが、赤いワンピースの女はいなかった。走り出す列車に乗り込んだ若いカップルに手を振る数人の若者たちがいるだけだった。
実は数年前に、こんな話しがあった。この駅ではないが、四番線ホームで新婚旅行の旅に出ようとしていたカップルが、友人たちに祝福されて列車が来るのを待っていた。わいわいがやがや楽しくはしゃいでいたときだ。不幸にもはずみで新婦がホーム下に落ちてしまった。ちょうどその時回送電車が通過して、赤いワンピースの新婦は帰らぬ人となった。ワンピースの切れ端が、風に舞って四番線ホームをさまよった。以来赤いワンピースの亡霊は、列車を乗り継いで全国の四番線プラットホームに、自分のワンピースの切れ端を探しにやってくるのだという。
若いカップルを乗せた電車はスピードを増して、だんだん駅から離れて行く。友人たちは、にこやかに大きく手を振っている。そして電車の最後尾が見えた時、赤いワンピースの女がドアのところに立っているのを、里美は見た。女は、里美を見て微笑んだ。里美は後ろ向きになり、力いっぱい目を閉じた。
音声動画:恐怖体験「死線ホーム」
恐怖体験
映画「告白」
出演: 松たか子, 岡田将生, 木村佳乃
監督: 中島哲也
原作:湊かなえ「告白」
『嫌われ松子の一生』などの話題作を世に送り出す奇才・中島哲也監督が、湊かなえのベストセラー小説を映画化。
とある中学校の終業式後の雑然とした教室。1年B組のホームルームで、37人の生徒たちを前に、担任の森口悠子が突然の告白を始めた。「私の娘が死にました。警察は事故死と判断しましたが、娘は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」との一言から恐怖が始まる。
出演: 松たか子, 岡田将生, 木村佳乃
監督: 中島哲也
原作:湊かなえ「告白」
『嫌われ松子の一生』などの話題作を世に送り出す奇才・中島哲也監督が、湊かなえのベストセラー小説を映画化。
とある中学校の終業式後の雑然とした教室。1年B組のホームルームで、37人の生徒たちを前に、担任の森口悠子が突然の告白を始めた。「私の娘が死にました。警察は事故死と判断しましたが、娘は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」との一言から恐怖が始まる。