漫才「人間ドック」
A(上手、医者)
B(下手、人間ドック受診者)
A「君は、病院に行ったことあるかね?」
B「いたって健康なもので、一度も」
A「じゃあ、どういうときに、みんなは病院に行くと思う?」
B「そりゃあ、病気したときとか、怪我したときでしょう。寝不足で、入院する。病院のベッドに潜りこむ。なんていう人はいないでしょう」
A「そりゃそうだ。でも、病気や怪我をしたら、本当に病院へ行くかい?」
B「行くよ」
A「じゃあ、聞くけどね。この前、君、果物ナイフで指を切ったねえ? 病院に行ったの?」
B「行かなかった」
A「階段踏み外して、足、すりむいたときは?」
B「行かなかった」
A「柱に頭ぶつけて、たんこぶできたときは?」
B「行かなかった」
A「地方に行って、熱だして、寝込んだときは?」
B「行かなかった」
A「行かなかった、行かなかった、行かなかったって、病気や怪我をしても病院に行かないじゃないか!」
B「え? 今、間違わなかった?」
A「何が?」
B「行かなかったって言うの、一回少なかったよ!」
A「そんなこと言っているんじゃないんだ」
B「でも私、行かなかったって、四回言いましたよ」
A「だからね、そういうことを問題にしているんじゃなくて、病気や怪我をしても病院に行かないということを言っているんだ」
B「じゃあ、いつ行くんです? 病院には」
A「じゃあ、逆に聞くけど、どうして怪我をしているのに、熱があっても病院に行かなかったんだい?」
B「そりゃあ、仕事があって、こうして舞台に立たないことには、おまんまの食い上げになるだろう」
A「それそれ、それだよ!(指をさす)」
B「どこどこ、どこだよ!」
B、きょろきょろとあたりを探す
A「何やってんだよ。仕事の都合で、病院には行かなかったんだろう。仕事ができないくらいの病気や怪我をして、はじめて病院に行くんだ。自分の生活に不都合を感じない限り、病院には行かないんだよ。普通は」
B「あ、そうか」
A「でもね。悪くなって手遅れになるってこともあるから、人間ドックに行くのもいいかもね。君もどう? 人間ドック」
B「あのね。人を馬鹿にするのもいいかげんにしなさいよ!」
A「人間ドックが、嫌なのかい?」
B「やせても枯れても、私は人間ですよ。それを、犬と一緒にされては」
A「違うよ。ドッグとドックを間違えるなよ。人間ドックというのは、健康診断のことだよ」
B「あ、そう。病院の給食に、ドッグフードが出るかと思ったワン!」
A「そんな変な声出すのなら、君ねえ。さっそく人間ドックに行ってくるといいよ。転ばぬ先の杖と言って、健康診断で、思いもかけないことが、発見できるかも」
B「で、どこの病院がいい?」
A「そうだな。○×△病院には、名医がいるそうだから、そこへ行ってらっしゃい」
B「コンビなんだから、ついて行ってくれるんだろう?」
A「訳あって行けないんだ。ひとりで行ってらっしゃい」
B「訳って、何だよお?」
A「行けばわかるよ。行けば」
B、一回転して、場面は○×△病院
B「ここが、○×△病院か」
A「次の方、どうぞ」
B「○○君(相棒の名前)、こんな所で何やってるんだい?」
A「だから、訳ありだって言ったでしょ。ぼくが、医者をやらないと話しが進まないんだから。さて、わしが、この病院の名医じゃ。ところで、どこが悪いんだい?」
B「それがわかれば、病院には来ないでしょ! どこが悪いのか診てほしいから来ているんだ!」
A「えらそうな患者だ。とにかく、じゃあ、ちょっと胸を出して下さい」
B「はい(胸を張る)」
A「シャツを上げて、肌を見せてほしいんです」
B「はい」
A、Bに聴診器を当てながら
A「うん、ふむふむ」
B、Aの足を踏む
A「痛いなあ! 何するんだよ!」
B「踏む踏むと言ったので、足、踏むのかと思って。大丈夫かなあ」
A「それは、それはこっちの台詞だ」
A、Bにまた聴診器を当てながら
A「むむ!(驚きと怪訝)」
B「どうかしましたか?」
A「あなたは、既に死んでいます。心臓の鼓動が聞こえません」
B「通りで、最近影が薄いと思ったってえ? 先生、聴診器の管、耳にさしていませんよ。大丈夫かなあ」
A、聴診器の管を耳にさしなおして
A「冗談じゃよ。冗談。うーん、心臓はあるようじゃ」
B「そりゃありますよ」
A「まあ、とにかく今日は人間ドックということですから、体の隅々まで診さしてもらいますよ。いろいろ検査もします」
B「どんな検査するんですか?」
A「尿検査、血液検査、レントゲンに、心電図、エコー検査もするからな」
B「それで終わりですか?」
A「場合によっては、胃カメラもしなきゃならんかも。で、まずは血液検査じゃ。採血するから、腕を出しなさい」
B「はい」
Bが出した筆を、Aが受け取って
A「わしは、書道三級でなあ、って。筆を出すんじゃない。腕じゃ!」
B「いやじゃ!」
A「さあ、つかまえたぞ。もう放さないからな(Bの腕をつかまえる)」
B「注射は、嫌だなあ」
A「注射じゃなくて、採血じゃ。ほんの少し血を抜くだけ」
B「その抜くだけが、痛いんでしょう?」
A「痛いと思えば、痛いし。痛くないと思えば、やっぱり痛い!」
A、Bに針を刺す
B「痛い! ところで、刺す前に消毒しました?」
A「ぺっ、ぺっ!(つばを吐く)これで大丈夫」
B「何するんですか?」
A「わしは子どもの頃、いつもこうしておった」
B「本当に、大学で医学を学んだんでしょうね?」
A「ほうら、なんだかんだと言っているうちに、血が抜けた」
B「ちょっと抜き過ぎじゃあ」
A「そうじゃなあ。最近の検査機器は進歩して、ほんの少しの血液で、いろんな事が分かる。ちょっと抜き過ぎたかもな。よし、半分もどそう」
B「痛! もどさないで下さいよ」
A「もともとこの血は、あなたのもの。もったいない、もったいない」
B「ああ、何だか気分が悪くなってきました。目が回る」
A「血を抜いたのが、悪かったみたいじゃ。貧血になったな。よし、抜いた血液、全部もどそう」
B「ああ! やめて下さい。もういいです。体、最高に元気です。最高です!」
A「最高ですか? じゃあ、足の裏も診ましょうか?」
A、Bの足を持ち上げる
B「あのね。とにかく、まじめにやって下さい」
A「じゃあ、今までのことはなかったことにして、最終兵器を出しましょう」
B「何です? 最終兵器って」
A「内視鏡ファイバースコープ!」
B「何です?」
A「要するに、胃カメラのことじゃ。この管を喉から通して、体の中を見てみましょう。さあ、口を大きく開けて下さい」
B「そんな恐いもの、飲み込めませんよ」
A「医者と患者は、信頼関係で結ばれておる。心配するな!」
B「もっと患者にやさしい機械はないのですか?」
A「あります」
B「それを待っていたんですよ」
A「これじゃ」
A、小さなカプセルをポケットから取り出す
B「何です? それ」
A「これも、胃カメラじゃ。この小さなカプセルの中に、超小型のカメラが内蔵されている。これを飲み込むと、外のモニターで観察するだけという優れもの」
B「それなら、先生と信頼関係が結べそうです」
A「では、口を大きく開けて」
B「ああん、・・」
A「さっき焼きそば食べたね?」
B「どうして、わかったんです?」
A「青海苔が、歯にしがみついておる」
B「そんなことどうでもいいですから、カプセルを放り込んで下さい」
A「カプセルに、青海苔がくっつかなければいいんだが、・・。それ!」
A、Bの口にカプセルを放り込む
A「あ、しまった」
B「どうしたんです?」
A「さっきトイレに行って、手を洗わなかったんだ」
B「汚いなあ。それでも名医ですか?」
A「ハンカチ持っていなかったので、手を洗おうかどうしようかと迷ってねえ」
B「迷う方の迷医だったんですね。もう、やめさせてもらいます!」
完
映画「手紙」
直貴(山田孝之)。誰とも打ち解けることなく、人目を避けて生きる彼にはある秘密があった。兄・剛志(玉山鉄二)が、弟を大学に行かせるための学費欲しさに盗みに入った邸宅で、誤って人を殺してしまったのだ。数度にわたる引越しと転職。掴みかけたのに鼻先をすり抜けた、お笑い芸人になる夢。はじめて愛した女性との痛切な別離…。耐え切れず自暴自棄になる彼を、深い絶望の底から救ったのは、 常に現実から目をそらさず、陽の当たる場所へと導いてくれた由美子(沢尻エリカ)の存在だった。 しかし、彼女とのささやかな幸せが再び脅かされるようになった時、彼は決意する。―塀の中から届き続ける、この忌まわしい「手紙」という鎖を断ち切ってしまおうと。
参考:漫才「人間ドック」
ジョークボックス
A(上手、医者)
B(下手、人間ドック受診者)
A「君は、病院に行ったことあるかね?」
B「いたって健康なもので、一度も」
A「じゃあ、どういうときに、みんなは病院に行くと思う?」
B「そりゃあ、病気したときとか、怪我したときでしょう。寝不足で、入院する。病院のベッドに潜りこむ。なんていう人はいないでしょう」
A「そりゃそうだ。でも、病気や怪我をしたら、本当に病院へ行くかい?」
B「行くよ」
A「じゃあ、聞くけどね。この前、君、果物ナイフで指を切ったねえ? 病院に行ったの?」
B「行かなかった」
A「階段踏み外して、足、すりむいたときは?」
B「行かなかった」
A「柱に頭ぶつけて、たんこぶできたときは?」
B「行かなかった」
A「地方に行って、熱だして、寝込んだときは?」
B「行かなかった」
A「行かなかった、行かなかった、行かなかったって、病気や怪我をしても病院に行かないじゃないか!」
B「え? 今、間違わなかった?」
A「何が?」
B「行かなかったって言うの、一回少なかったよ!」
A「そんなこと言っているんじゃないんだ」
B「でも私、行かなかったって、四回言いましたよ」
A「だからね、そういうことを問題にしているんじゃなくて、病気や怪我をしても病院に行かないということを言っているんだ」
B「じゃあ、いつ行くんです? 病院には」
A「じゃあ、逆に聞くけど、どうして怪我をしているのに、熱があっても病院に行かなかったんだい?」
B「そりゃあ、仕事があって、こうして舞台に立たないことには、おまんまの食い上げになるだろう」
A「それそれ、それだよ!(指をさす)」
B「どこどこ、どこだよ!」
B、きょろきょろとあたりを探す
A「何やってんだよ。仕事の都合で、病院には行かなかったんだろう。仕事ができないくらいの病気や怪我をして、はじめて病院に行くんだ。自分の生活に不都合を感じない限り、病院には行かないんだよ。普通は」
B「あ、そうか」
A「でもね。悪くなって手遅れになるってこともあるから、人間ドックに行くのもいいかもね。君もどう? 人間ドック」
B「あのね。人を馬鹿にするのもいいかげんにしなさいよ!」
A「人間ドックが、嫌なのかい?」
B「やせても枯れても、私は人間ですよ。それを、犬と一緒にされては」
A「違うよ。ドッグとドックを間違えるなよ。人間ドックというのは、健康診断のことだよ」
B「あ、そう。病院の給食に、ドッグフードが出るかと思ったワン!」
A「そんな変な声出すのなら、君ねえ。さっそく人間ドックに行ってくるといいよ。転ばぬ先の杖と言って、健康診断で、思いもかけないことが、発見できるかも」
B「で、どこの病院がいい?」
A「そうだな。○×△病院には、名医がいるそうだから、そこへ行ってらっしゃい」
B「コンビなんだから、ついて行ってくれるんだろう?」
A「訳あって行けないんだ。ひとりで行ってらっしゃい」
B「訳って、何だよお?」
A「行けばわかるよ。行けば」
B、一回転して、場面は○×△病院
B「ここが、○×△病院か」
A「次の方、どうぞ」
B「○○君(相棒の名前)、こんな所で何やってるんだい?」
A「だから、訳ありだって言ったでしょ。ぼくが、医者をやらないと話しが進まないんだから。さて、わしが、この病院の名医じゃ。ところで、どこが悪いんだい?」
B「それがわかれば、病院には来ないでしょ! どこが悪いのか診てほしいから来ているんだ!」
A「えらそうな患者だ。とにかく、じゃあ、ちょっと胸を出して下さい」
B「はい(胸を張る)」
A「シャツを上げて、肌を見せてほしいんです」
B「はい」
A、Bに聴診器を当てながら
A「うん、ふむふむ」
B、Aの足を踏む
A「痛いなあ! 何するんだよ!」
B「踏む踏むと言ったので、足、踏むのかと思って。大丈夫かなあ」
A「それは、それはこっちの台詞だ」
A、Bにまた聴診器を当てながら
A「むむ!(驚きと怪訝)」
B「どうかしましたか?」
A「あなたは、既に死んでいます。心臓の鼓動が聞こえません」
B「通りで、最近影が薄いと思ったってえ? 先生、聴診器の管、耳にさしていませんよ。大丈夫かなあ」
A、聴診器の管を耳にさしなおして
A「冗談じゃよ。冗談。うーん、心臓はあるようじゃ」
B「そりゃありますよ」
A「まあ、とにかく今日は人間ドックということですから、体の隅々まで診さしてもらいますよ。いろいろ検査もします」
B「どんな検査するんですか?」
A「尿検査、血液検査、レントゲンに、心電図、エコー検査もするからな」
B「それで終わりですか?」
A「場合によっては、胃カメラもしなきゃならんかも。で、まずは血液検査じゃ。採血するから、腕を出しなさい」
B「はい」
Bが出した筆を、Aが受け取って
A「わしは、書道三級でなあ、って。筆を出すんじゃない。腕じゃ!」
B「いやじゃ!」
A「さあ、つかまえたぞ。もう放さないからな(Bの腕をつかまえる)」
B「注射は、嫌だなあ」
A「注射じゃなくて、採血じゃ。ほんの少し血を抜くだけ」
B「その抜くだけが、痛いんでしょう?」
A「痛いと思えば、痛いし。痛くないと思えば、やっぱり痛い!」
A、Bに針を刺す
B「痛い! ところで、刺す前に消毒しました?」
A「ぺっ、ぺっ!(つばを吐く)これで大丈夫」
B「何するんですか?」
A「わしは子どもの頃、いつもこうしておった」
B「本当に、大学で医学を学んだんでしょうね?」
A「ほうら、なんだかんだと言っているうちに、血が抜けた」
B「ちょっと抜き過ぎじゃあ」
A「そうじゃなあ。最近の検査機器は進歩して、ほんの少しの血液で、いろんな事が分かる。ちょっと抜き過ぎたかもな。よし、半分もどそう」
B「痛! もどさないで下さいよ」
A「もともとこの血は、あなたのもの。もったいない、もったいない」
B「ああ、何だか気分が悪くなってきました。目が回る」
A「血を抜いたのが、悪かったみたいじゃ。貧血になったな。よし、抜いた血液、全部もどそう」
B「ああ! やめて下さい。もういいです。体、最高に元気です。最高です!」
A「最高ですか? じゃあ、足の裏も診ましょうか?」
A、Bの足を持ち上げる
B「あのね。とにかく、まじめにやって下さい」
A「じゃあ、今までのことはなかったことにして、最終兵器を出しましょう」
B「何です? 最終兵器って」
A「内視鏡ファイバースコープ!」
B「何です?」
A「要するに、胃カメラのことじゃ。この管を喉から通して、体の中を見てみましょう。さあ、口を大きく開けて下さい」
B「そんな恐いもの、飲み込めませんよ」
A「医者と患者は、信頼関係で結ばれておる。心配するな!」
B「もっと患者にやさしい機械はないのですか?」
A「あります」
B「それを待っていたんですよ」
A「これじゃ」
A、小さなカプセルをポケットから取り出す
B「何です? それ」
A「これも、胃カメラじゃ。この小さなカプセルの中に、超小型のカメラが内蔵されている。これを飲み込むと、外のモニターで観察するだけという優れもの」
B「それなら、先生と信頼関係が結べそうです」
A「では、口を大きく開けて」
B「ああん、・・」
A「さっき焼きそば食べたね?」
B「どうして、わかったんです?」
A「青海苔が、歯にしがみついておる」
B「そんなことどうでもいいですから、カプセルを放り込んで下さい」
A「カプセルに、青海苔がくっつかなければいいんだが、・・。それ!」
A、Bの口にカプセルを放り込む
A「あ、しまった」
B「どうしたんです?」
A「さっきトイレに行って、手を洗わなかったんだ」
B「汚いなあ。それでも名医ですか?」
A「ハンカチ持っていなかったので、手を洗おうかどうしようかと迷ってねえ」
B「迷う方の迷医だったんですね。もう、やめさせてもらいます!」
完
映画「手紙」
直貴(山田孝之)。誰とも打ち解けることなく、人目を避けて生きる彼にはある秘密があった。兄・剛志(玉山鉄二)が、弟を大学に行かせるための学費欲しさに盗みに入った邸宅で、誤って人を殺してしまったのだ。数度にわたる引越しと転職。掴みかけたのに鼻先をすり抜けた、お笑い芸人になる夢。はじめて愛した女性との痛切な別離…。耐え切れず自暴自棄になる彼を、深い絶望の底から救ったのは、 常に現実から目をそらさず、陽の当たる場所へと導いてくれた由美子(沢尻エリカ)の存在だった。 しかし、彼女とのささやかな幸せが再び脅かされるようになった時、彼は決意する。―塀の中から届き続ける、この忌まわしい「手紙」という鎖を断ち切ってしまおうと。
参考:漫才「人間ドック」
ジョークボックス