口演童話「なまずのヒゲ」
生まれたばかりのぼくは、まだ自分がなまずであることを知りませんでした。いつも川のおたまじゃくしたちにまじって、いっしょに泳いでいました。おたまじゃくしたちは、ぼくのことをちょっと変なやつだと思っていたようです。
「おい、またヒゲをはやしたおたまじゃくしがやって来たぞ」
「何だかいばっているみたいで、ぬいてやりたいわ、あのヒゲ」
「ヒゲが六本もあるから、ろくでもないものになるにちがいない」
おたまじゃくしたちは、ぼくのいないところで好き勝手なことを言っていたようです。ぼくはそんなこととは知らず、いっしょに遊んでくれるおたまじゃくしたちのことを友だちだと思っていました。
月日が流れて、おたまじゃくしたちの体に変化があらわれました。尾が短くなり、足がはえてきました。
「尾がなくなれば、自由に泳げないじゃないか」
「泳ぐのにじゃまだから、足なんかいらないわ」
おたまじゃくしたちは、自分たちが変化することがいやなようです。
「尾がなくなっても足があるんだから、その足で川の外の世界を歩けるよ。そして、たくさんの楽しいことも見ることができるよ。うらやましいなあ」
そうぼくが言いましたが、おたまじゃくしたちはうれしくないようです。
「変な姿になって、川の外なんかに出たくないんだ」
「どろをかぶって、ずっとかくれんぼうをしていたいのよ」
おたまじゃくしたちの気持ちとはうらはらに、尾がなくなり、足がはえてきました。みんな、カエルになってしまいました。川の中にひとりとりのこされたのは、ぼくでした。
カエルたちは、陸からぼくに言いました。
「外の世界は広いぞ。おまえも上がって来いよ。また、いっしょに遊ぼうぜ。あ、そうかそうか、立派なヒゲはあっても、足がないんだったな。ざんねん、ざんねん」
「水かきがある足だから、ちゃんと泳げるのよ。川でも陸でも住めるってことは、すばらしいこと。これが、おとなになるってこと。あなたも早くおとなになってね」
カエルたちはケケラ、ケロケロ笑いました。
そのようすを草むらから、ヘビが見ていました。ヘビは、そっとカエルたちに近づきとびかかりました。
「きゃー!」
一匹のカエルが、ヘビに足をくわえられました。痛くてもがけばもがくほど、足がちぎれそうです。
そのとき、
「ぼくの友だちをいじめるものは、しょうちしないぞ!」
そう叫んで、ぼくはヘビのしっぽにくらいつきました。そして、ヘビを川の中にどんどんひきずりこみました。
ヘビは息が苦しくなったらしくて、くわえていたカエルの足をはなしました。カエルはぷくっと水の上に顔を出して、仲間のカエルたちといっしょに、どこかに逃げて行ってしまいました。
ぼくは、ヘビがカエルをくわえていないことを知り、ヘビのしっぽをはなしました。
「なまいきななまずめ、おぼえていろよ!」
ヘビは、そう言い残すと、どこかに消えてしまいました。
「たしか今、ヘビは、ぼくのことをなまずって言ったなあ」
そのとき、ぼくは、自分がおたまじゃくしではなく、カエルでもなく、なまずであることをはじめて知りました。
ぼくは、水の上に顔を出しましたが、もうそこにはだれもいませんでした。
そのとき、川の底から地ひびきがしました。そして、ぼくと同じ姿をしたなまずたちが、何十匹、何百匹と現れました。その中でもひときわ大きななまずが、
「おまえも、立派なおとなのなまずになったな」
と、言いました。
「ぼくが、おとなのなまずに?」
「よく見てみな。ヒゲが、六本から四本になているだろう」
さっきヘビとはげしく争ったときに、ヒゲが二本とれてしまったのでした。
なまずのヒゲが四本なのは、おとなになったあかしでした。
なまずの駄菓子屋
池田 あきこ (著)
トロル川に釣りに出かけたダヤンは、みなれない店が、川岸のくぼんだところに開かれているのを見つけました。「おや、いつのまにこんな店ができたんだろう」その店は、なまずのおばさんの駄菓子屋で、なまずのおばさんは頭巾のおくから小さな目を光らせて、はじめてきた客の顔をしげしげとのぞきこむのでした。・・・ちょっびりミステリアスで、ウェットなお話。
参考:口演童話「なまずのヒゲ」
口演童話
生まれたばかりのぼくは、まだ自分がなまずであることを知りませんでした。いつも川のおたまじゃくしたちにまじって、いっしょに泳いでいました。おたまじゃくしたちは、ぼくのことをちょっと変なやつだと思っていたようです。
「おい、またヒゲをはやしたおたまじゃくしがやって来たぞ」
「何だかいばっているみたいで、ぬいてやりたいわ、あのヒゲ」
「ヒゲが六本もあるから、ろくでもないものになるにちがいない」
おたまじゃくしたちは、ぼくのいないところで好き勝手なことを言っていたようです。ぼくはそんなこととは知らず、いっしょに遊んでくれるおたまじゃくしたちのことを友だちだと思っていました。
月日が流れて、おたまじゃくしたちの体に変化があらわれました。尾が短くなり、足がはえてきました。
「尾がなくなれば、自由に泳げないじゃないか」
「泳ぐのにじゃまだから、足なんかいらないわ」
おたまじゃくしたちは、自分たちが変化することがいやなようです。
「尾がなくなっても足があるんだから、その足で川の外の世界を歩けるよ。そして、たくさんの楽しいことも見ることができるよ。うらやましいなあ」
そうぼくが言いましたが、おたまじゃくしたちはうれしくないようです。
「変な姿になって、川の外なんかに出たくないんだ」
「どろをかぶって、ずっとかくれんぼうをしていたいのよ」
おたまじゃくしたちの気持ちとはうらはらに、尾がなくなり、足がはえてきました。みんな、カエルになってしまいました。川の中にひとりとりのこされたのは、ぼくでした。
カエルたちは、陸からぼくに言いました。
「外の世界は広いぞ。おまえも上がって来いよ。また、いっしょに遊ぼうぜ。あ、そうかそうか、立派なヒゲはあっても、足がないんだったな。ざんねん、ざんねん」
「水かきがある足だから、ちゃんと泳げるのよ。川でも陸でも住めるってことは、すばらしいこと。これが、おとなになるってこと。あなたも早くおとなになってね」
カエルたちはケケラ、ケロケロ笑いました。
そのようすを草むらから、ヘビが見ていました。ヘビは、そっとカエルたちに近づきとびかかりました。
「きゃー!」
一匹のカエルが、ヘビに足をくわえられました。痛くてもがけばもがくほど、足がちぎれそうです。
そのとき、
「ぼくの友だちをいじめるものは、しょうちしないぞ!」
そう叫んで、ぼくはヘビのしっぽにくらいつきました。そして、ヘビを川の中にどんどんひきずりこみました。
ヘビは息が苦しくなったらしくて、くわえていたカエルの足をはなしました。カエルはぷくっと水の上に顔を出して、仲間のカエルたちといっしょに、どこかに逃げて行ってしまいました。
ぼくは、ヘビがカエルをくわえていないことを知り、ヘビのしっぽをはなしました。
「なまいきななまずめ、おぼえていろよ!」
ヘビは、そう言い残すと、どこかに消えてしまいました。
「たしか今、ヘビは、ぼくのことをなまずって言ったなあ」
そのとき、ぼくは、自分がおたまじゃくしではなく、カエルでもなく、なまずであることをはじめて知りました。
ぼくは、水の上に顔を出しましたが、もうそこにはだれもいませんでした。
そのとき、川の底から地ひびきがしました。そして、ぼくと同じ姿をしたなまずたちが、何十匹、何百匹と現れました。その中でもひときわ大きななまずが、
「おまえも、立派なおとなのなまずになったな」
と、言いました。
「ぼくが、おとなのなまずに?」
「よく見てみな。ヒゲが、六本から四本になているだろう」
さっきヘビとはげしく争ったときに、ヒゲが二本とれてしまったのでした。
なまずのヒゲが四本なのは、おとなになったあかしでした。
なまずの駄菓子屋
池田 あきこ (著)
トロル川に釣りに出かけたダヤンは、みなれない店が、川岸のくぼんだところに開かれているのを見つけました。「おや、いつのまにこんな店ができたんだろう」その店は、なまずのおばさんの駄菓子屋で、なまずのおばさんは頭巾のおくから小さな目を光らせて、はじめてきた客の顔をしげしげとのぞきこむのでした。・・・ちょっびりミステリアスで、ウェットなお話。
参考:口演童話「なまずのヒゲ」
口演童話