口演童話「ネズミバー」
ネズミバーでは、ネズミたちが酒を飲んでいました。
針山市こうじ町下水道一丁目にあるこの店では、客にすすめるわけでもなく、薄汚れたカウンターの奥でマスターが一人、たばこを吸っていました。一晩中タバコを吸っているものだから、店の中は煙だらけでした。その煙でお互いの顔が見えないことをいいことに、客たちは、酒の勢いも借りて、気分よく大げさに話をしていました。ウソでもホラでも、笑えるものは何だって、酒のさかなにしました。
あるテーブルで、ドブネズミとイエネズミが、かけをはじめました。
「ここらでひとつ、かけをしようじゃないか?」と、ドブネズミ。
「で、どんなかけだい?」と、イエネズミ。
「神様は、どうして俺たちをこんな姿にしたかってことだが。ひとつ、神様の目からすると、俺たちはとんでもなくかわいくて、抱きしめたいほどいい匂いがして、よだれが出てきそうなくらいおいしいということ。ふたつ、もうどうにもこうにも汚らしくて、いやみなしっぽは切ってしまいたいほどで、ヒステリックな声はまるめて捨てたいということ。さあ、どっちにかける? 勝ったものは、100ドラクだ」
イエネズミが、答えて言うには、
「俺は、ひとつめにする」
「じゃあ、俺は、ふたつめにする」
「それで、この答えは、神様に聞かなきゃわからないが、どのテーブルに神様がいるんだい?」
「そんなものいやしないさ。あ、ははは・・・。このかけは、あいこということにしよう」
「おいこら、ドブネズミ。俺をからかったのか?」
「そうじゃないさ。今、かけた100ドラクをお互いだして、次のかけに加えよう」
こうして、ドブネズミとイエネズミは、自分たちには答えのわからないかけを12回しました。金はどんどん積まれて、10億ドラクになりました。
さて、13回目のかけが、はじまりました。
「俺たちネズミは、夜の闇の中を飛べるということだが。ひとつ、闇夜を飛べる。ふたつ、飛べない。さあ、どっちだ?」
「どうせまた、答えのないかけなんだろう? そのうち、俺の金がなくなったとき、都合のいいかけを持ち込んで、金を全部もっていくんだろう? そうなんだろう? このうすぎたないドブネズミやろうが!」
ドブネズミは、かけのしかけがイエネズミに見やぶられたと思いました。しかし、
「しっけいなヤツだなあ、おまえは。じゃあ、このかけを最後にしよう。さあ、どっちにかけるんだい?」
イエネズミは、酔いもさめてきて、せめて積み上げた自分の5億ドラクだけでも、取り戻せれがいいかと考えました。
ドブネズミも、ばれてはしょうがない、ここは、あいこということにして、手を引くことにしました。そこで、イエネズミがかけた方に、自分もかけようと考えました。万が一このかけに答えがあったとしても、お互いが勝つか、お互いが負けるかで、あいこになると考えたからです。
「じゃあ、これが最後だ。俺は、飛べないにかけた」と、イエネズミ。
「じゃあ、俺も、飛べないにかける」と、ドブネズミ。
ドブネズミとイエネズミは、お互い顔を見合わせて、同時に言いました。
「それじゃあ、俺たち、あいこだ! あ、ははは、・・・」
二人は、テーブルをたたいて、笑いだしました。
その時、テーブルがひっくり返って、二人は飛び上がりました。そして、そのまま空中を飛んでいきました。
夜の闇に、フクロウにひっつかまれた二人が、もがいていました。
「おまえたちは、負けたんだ!」
フクロウは、そう言い残して、闇に消えていきました。
針山市こうじ町一丁目のネズミバーでは、何ごともなかったかのように、マスターがテーブルを起こして、フクロウ印のたばこをプカリとふかしました。そして、またどこかのテーブルで、かけがはじまるのをカウンターの奥から見ていました。
口演童話
参考:口演童話「ネズミバー」
ねずみのでんしゃ
山下 明生 (著), いわむら かずお (イラスト)
明日から始まるねずみたちの「ちゅーがっこう」。でも、7つごたちは行きたくありません。そこでお母さんはいろいろと考えます。
四季折々の自然を舞台に、元気に遊ぶ7つごねずみとそれを見守るお父さん、お母さん。家族の絆を感じさせてくれます。
ネズミバーでは、ネズミたちが酒を飲んでいました。
針山市こうじ町下水道一丁目にあるこの店では、客にすすめるわけでもなく、薄汚れたカウンターの奥でマスターが一人、たばこを吸っていました。一晩中タバコを吸っているものだから、店の中は煙だらけでした。その煙でお互いの顔が見えないことをいいことに、客たちは、酒の勢いも借りて、気分よく大げさに話をしていました。ウソでもホラでも、笑えるものは何だって、酒のさかなにしました。
あるテーブルで、ドブネズミとイエネズミが、かけをはじめました。
「ここらでひとつ、かけをしようじゃないか?」と、ドブネズミ。
「で、どんなかけだい?」と、イエネズミ。
「神様は、どうして俺たちをこんな姿にしたかってことだが。ひとつ、神様の目からすると、俺たちはとんでもなくかわいくて、抱きしめたいほどいい匂いがして、よだれが出てきそうなくらいおいしいということ。ふたつ、もうどうにもこうにも汚らしくて、いやみなしっぽは切ってしまいたいほどで、ヒステリックな声はまるめて捨てたいということ。さあ、どっちにかける? 勝ったものは、100ドラクだ」
イエネズミが、答えて言うには、
「俺は、ひとつめにする」
「じゃあ、俺は、ふたつめにする」
「それで、この答えは、神様に聞かなきゃわからないが、どのテーブルに神様がいるんだい?」
「そんなものいやしないさ。あ、ははは・・・。このかけは、あいこということにしよう」
「おいこら、ドブネズミ。俺をからかったのか?」
「そうじゃないさ。今、かけた100ドラクをお互いだして、次のかけに加えよう」
こうして、ドブネズミとイエネズミは、自分たちには答えのわからないかけを12回しました。金はどんどん積まれて、10億ドラクになりました。
さて、13回目のかけが、はじまりました。
「俺たちネズミは、夜の闇の中を飛べるということだが。ひとつ、闇夜を飛べる。ふたつ、飛べない。さあ、どっちだ?」
「どうせまた、答えのないかけなんだろう? そのうち、俺の金がなくなったとき、都合のいいかけを持ち込んで、金を全部もっていくんだろう? そうなんだろう? このうすぎたないドブネズミやろうが!」
ドブネズミは、かけのしかけがイエネズミに見やぶられたと思いました。しかし、
「しっけいなヤツだなあ、おまえは。じゃあ、このかけを最後にしよう。さあ、どっちにかけるんだい?」
イエネズミは、酔いもさめてきて、せめて積み上げた自分の5億ドラクだけでも、取り戻せれがいいかと考えました。
ドブネズミも、ばれてはしょうがない、ここは、あいこということにして、手を引くことにしました。そこで、イエネズミがかけた方に、自分もかけようと考えました。万が一このかけに答えがあったとしても、お互いが勝つか、お互いが負けるかで、あいこになると考えたからです。
「じゃあ、これが最後だ。俺は、飛べないにかけた」と、イエネズミ。
「じゃあ、俺も、飛べないにかける」と、ドブネズミ。
ドブネズミとイエネズミは、お互い顔を見合わせて、同時に言いました。
「それじゃあ、俺たち、あいこだ! あ、ははは、・・・」
二人は、テーブルをたたいて、笑いだしました。
その時、テーブルがひっくり返って、二人は飛び上がりました。そして、そのまま空中を飛んでいきました。
夜の闇に、フクロウにひっつかまれた二人が、もがいていました。
「おまえたちは、負けたんだ!」
フクロウは、そう言い残して、闇に消えていきました。
針山市こうじ町一丁目のネズミバーでは、何ごともなかったかのように、マスターがテーブルを起こして、フクロウ印のたばこをプカリとふかしました。そして、またどこかのテーブルで、かけがはじまるのをカウンターの奥から見ていました。
口演童話
参考:口演童話「ネズミバー」
ねずみのでんしゃ
山下 明生 (著), いわむら かずお (イラスト)
明日から始まるねずみたちの「ちゅーがっこう」。でも、7つごたちは行きたくありません。そこでお母さんはいろいろと考えます。
四季折々の自然を舞台に、元気に遊ぶ7つごねずみとそれを見守るお父さん、お母さん。家族の絆を感じさせてくれます。