口演童話「はんにんは、だれだ?」
1
はじめてのお使いは、だれでもどきどきするものです。小がっこう一年生のやまもとりょう君も、きょうがはじめてのお使いでした。近くのスーパーまで、カレーのざいりょうをかいに行くことになりました。
とちゅう、たなかさんちの前をとおらないといけません。たなかさんちでは、おおきな犬をかっていて、この犬がよくほえるのです。りょう君のおかあさんには、しんぱいなことがありました。それは、りょう君が犬にほえられて、スーパーにも行かずに、かえってくるかもしれないということです。
りょう君は、たなかさんちの前にきました。きょうは、犬はいないようです。いえの人が、さんぽにでも、つれて行ったのかもしれません。りょう君は、あんしんして、たなかさんちの前をとおりました。その時きゅうに、ものかげにかくれていた犬が出てきて、
「わん! わん! わん!」
りょう君は、もうスピードで走りました。その時、ポケットから、かみきれがいちまいおちました。そのかみには、「ニンジン、いっぽん」と、かかれていました。
いきをきらして、走って来たりょう君の前で、スーパーの入口のじどうドアが、すーっと開きました。
2
スーパーの中でりょう君は、おかし売りばで、ビスケットやチョコレートを見ていました。
「あ、そうだ、そうだ。ぼくは、カレーのざいりょうをかいに来たんだ」
りょう君は、じぶんがなにをしに来たのか、思いだしました。
「ええと、紙はどこへいったかなあ」
犬にほえられたときに、おとしたのですから、見つかりません。
「おちついて、おちついて。こういう時は、でんわをすればいいんだ。けいたいでんわを持って来たから、だいじょうぶ」
おかあさんは、りょう君に何かあったらいけないと思って、けいたいでんわを持たせていました。
「いちばんをおせば、しぜんにかかるって言っていたよなあ」
「ぴぴぴぴぴぽぱぱ」
「あ、おかあさん? 何をかうんだったっけ?」
「ニンジン、いっぽんよ」
りょう君は、レジにニンジンを持って、行きました。
「ああ、またやっちゃった。お金を持って来るのをわすれちゃった」
3
「お金を持っていなくても、ニンジンはかえますよ。その手に持っている、カードがあれば」
レジの人が、そう言いました。りょう君は、けいたいでんわのほかに、カードもおかあさんから、あずかっていました。りょう君は、カードでニンジンをかうと、スーパーを出ました。
家でしんぱいしていた、おかあさんでしたが、スーパーについたりょう君の声がきけて、ちょっとあんしんしました。そこへまた、でんわがかかってきました。
「また、りょうかしら?」
おかあさんは、でんわのじゅわきをとりました。
「が、が、が、がね、がね」
と、言って、でんわはぷつんと切れました。いたずらでんわだったようです。ところが、また、でんわがかかってきました。
「が、がねをだせ。こ、こどもはごご」
おかあさんは、びっくりしました。ひょっとして、りょう君が、ゆうかいされたのでは、と思いました。りょう君に持たせた、けいたいでんわに、でんわをしました。すると、
「かねをだせ!」
4
やはり、りょう君は、ゆうかいされたみたいです。おかあさんは、おとうさんの会社に、でんわをしました。
「これから、すぐかえるから。けいさつにも、でんわをしておくんだ」
おとうさんは、そう言うと、いそいで家にかえってきました。
「わたしが、りょうをひとりで、お使いに行かしたものだから。あああ、・・・」
おかあさんの目は、なみだでいっぱいになりました。けいさつの人は、まだひとりしか来ていませんでした。
「ほかの人は、来ないんですか?」
「はんにんが、この家をみはっているかもしれないから、めだたないように、集まることになっているんです」
しばらくすると、ゆうびんやさんにへんそうした人が、やって来ました。つぎに、しんぶんのしゅうきんの人です。たくはいで、にもつを持って来た人もいました。近所のかいらんを、持って来た人もいました。
そして、ぎゃくたんちきを、でんわにとりつけました。これをつけておけば、はんにんが、どこからでんわをかけているのか、わかります。
「プルルルル、プルルルル」
でんわが、かかってきました。
5
おかあさんが、でんわに出ました。
「も、もしもし。や、やまもとです」
「・・・」
何も声がしないで、でんわは切れました。
「おかあさん。こんど、かかってきたら、もう少し長く話をしてください。こどもが、ぶじかどうか、きいてみてください」
けいさつの人が、そう言いました。
そこへまた、でんわがかかってきました。
「おちついて、じゅわきをとってください。あいてが、何も話さなくても、話しつづけてください」
おかあさんは、じゅわきをとりました。
「もしもし。やまもとです」
「・・・」
「りょうは、ぶじなの? そこにいるの? りょうの声をきかして、おねがい。お金がほしいのなら、言って。いくらいるの?もしもし、もしもし」
「りょう。ぶじ。おかね」
「りょうは、りょうは、ぶじなのね? もしもし」
「・・・」
でんわは、切れてしまいました。
「ぎゃくたんちに、せいこうしました! はんにんのいるところが、わかりました!」
けいさつの人が、そうさけびました。
6
「それで、はんにんのいる所は、どこなんですか?」
りょう君のおとうさんが、けいさつの人に、たずねました。
「からす山という山の中らしい。何か、こころあたりはないですか?」
「山のふもとに、りょうのおじいさんとおばあさんが、住んでいます」
「それじゃあ、れんらくをとてください。何かわかるかもしれません。からす山のけいさつには、こちらかられんらくをとって、おうえんをたのみます」
れんらくをうけたおじいさんたちは、びっくりしました。まごのためならと、じもとの青年だんに声をかけて、おうえんをたのみました。じもとのけいさつと青年だんとおじいさんは、山がりをすることにしました。
はんにんに気がつかれないように、みんなしずかに山を登りました。おじいさんは、犬のケンをつれて行きました。りょう君のにおいを知っている犬のケンですから、人間より見つけるのが早いかもしれません。
しばらくすると、おじいさんのズボンを、ケンがひっぱりました。やはり、ケンがさいしょに、はんにんを見つけたようです。
7
犬のケンのあとをついていくと、カラスがいました。
「はんにんは、カラスじゃったよ」
おじいさんは、りょう君の家にでんわをしました。りょう君のおとうさんは、どういうことなのか、まったくわかりませんでした。
「カラスが、でんわをしていたんじゃ。カラスのやつ、どこかで、りょうの持っていたけいたいでんわを、ひろったらしくて。でんわのボタンをおして、ぐうぜんそっちに、つながったようじゃ」
「どおりで、はんにんの声が、へんながらがら声だったんですね。それで、りょうは、今どこに?」
「それなんじゃが、本当のはんにんは、ここにはおらんかった。今から、ばあさんとそっちに行くから」
けいたいでんわをぬすんだ、はんにんはわかりましたが、りょう君をつれさった、はんにんがわかりません。けいさつは、スーパーからりょう君の家のあいだで、りょう君を見かけた人はいないか、しらべることにしました。
「ぼく、りょう君を見かけたよ」
りょう君を見たという子が、あらわれました。
8
りょう君を見かけたのは、りょう君の友だちのなかむら君でした。
「ぼくね、りょう君が、知らないおばさんといるのを見たよ。それでね、りょう君は、足から血を出していたよ」
「はんにんに、らんぼうされたのかい?」
「手を引かれて行くのを見ただけで、そこまでは知らない。でも、家にはいるところも見たよ」
「なに! はんにんの家を知っているのか。それじゃあ、その家をおしえてくれるかい?」
「いいよ」
なかむら君は、けいさつの人たちを、はんにんの家につれて行きました。
家の中に、はんにんがいるのかどうかは、外からはわかりません。りょう君のすがたも見えません。
「ただいま、はんにんの家の前にいます。おうえん、たのみます」
けいさつの人たちは、はんにんの家をとりかこみ、パトカーもたくさん来ました。はんにんの家の近所の人たちは、何があったのかと、さわぎはじめました。けいさつは、はんにんに気づかれて、りょう君がきずついてはいけないので、しずかにするように言いました。
9
はんにんの家というのは、りょう君の友だちのさとう君ちでした。
じつは、りょう君は、かえり道でまた犬にほえられて、あわてて走ったので、ころんでしまいました。けがをしたりょう君を、さとう君のおかあさんが見つけて、助けました。
けいたいでんわは、ころんだときに落としたもので、カラスが見つけて、持ちさったのでした。
「あ、りょう君が、にかいのまどの所に!」
なかむら君は、まどをゆびさしました。
「りょう君は、ぶじだったか。しかし、早く助けださないと、はんにんが何をするかわからん。すきがあったら、はんにんにとびかかる、じゅんびをしておかなくては」
けいさつのぶちょうが、そう言いました。
「あ、ベランダにウサギがいるよ!」
「はんにんは、ウサギをかっているんだな。しかし、ウサギは、このじけんには、かんけいないから、どうでもいいことだ」
けいさつのぶちょうが、そう言った時、りょう君とさとう君のおかあさんが、家からでてきました。
「それ、今だ! はんにんをつかまえろ!」
けいさつかんたちが、いっせにさとう君のおかあさんに、とびかかりました。
10
りょう君とさとう君のお母さんがでてきて、そのあとから、さとう君もでてきました。
「何をするんだよお! ぼくのお母さんに」
「そのおばさんは、さとう君のおかあさんだよ。ぼくの足のきずをみてくれたんだよ」
いったいどうなっているんだと、みんなふしぎに思いましたが、だんだんなぞがとけてきました。
りょう君、さとう君、なかむら君は、みんな友だちでしたが、さいきんてんこうしてきた、さとう君の家を、りゅう君となかむら君は、まだ知らなかったのでした。
しばらくして、りゅう君のおとうさんとおかあさんが、かけつけました。
「みなさまに、大変ごめいわくをおかけして、もうしわけありませんでした。おわびといってはなんですが、これからカレーパーティーを開きますので、来ていただけないでしょうか?けいさつのかたがた、ご近所のかたがた、いかがでしょうか?」
「いいぞ! カレーパーティーをしよう!」
「さんせい! さんせい!」
みんな、カレーパーティーにさんせいしました。さあ、これからが、おおいそがしです。百人のカレーパーティーのはじまりです。
11
小さなりゅう君の家に、百人の人が集まり、てんやわんやのおおさわぎです。うたあり、ダンスあり、どうろまではみだしての大パーティーです。
りゅう君のおじいさんとおばあさんも、かけつけました。もちろん、犬のケンもいっしょです。
やがて、みんな、おなかがいっぱいになって、しあわせな気持ちになりました。夕焼けにそまって、みんなの顔も赤くなりました。
りゅう君のおじいさんが、言いました。
「ところで、こんどのじけんのはんにんは、いったいだれだったんじゃ?」
りゅう君は、言いました。
「はんにんは、ニンジンだよ」
「じゃあ、そのはんにんのニンジンとやらを、つかまえにいくとするか」
「はんにんのニンジンは、さとう君ちのにかいだよ」
りゅう君、おじいさん、さとう君、なかむら君の四人は、長くかげをのばしながら、ニンジンいる家へ向いました。でも、このはんにんさがしは、しっぱいします。もう、はんにんのニンジンは、消えていなくなっているのですから。
さとう君ちのウサギが、こっそり食べてしまったというわけ。
参考:口演童話「はんにんは、だれだ?」
口演童話
1
はじめてのお使いは、だれでもどきどきするものです。小がっこう一年生のやまもとりょう君も、きょうがはじめてのお使いでした。近くのスーパーまで、カレーのざいりょうをかいに行くことになりました。
とちゅう、たなかさんちの前をとおらないといけません。たなかさんちでは、おおきな犬をかっていて、この犬がよくほえるのです。りょう君のおかあさんには、しんぱいなことがありました。それは、りょう君が犬にほえられて、スーパーにも行かずに、かえってくるかもしれないということです。
りょう君は、たなかさんちの前にきました。きょうは、犬はいないようです。いえの人が、さんぽにでも、つれて行ったのかもしれません。りょう君は、あんしんして、たなかさんちの前をとおりました。その時きゅうに、ものかげにかくれていた犬が出てきて、
「わん! わん! わん!」
りょう君は、もうスピードで走りました。その時、ポケットから、かみきれがいちまいおちました。そのかみには、「ニンジン、いっぽん」と、かかれていました。
いきをきらして、走って来たりょう君の前で、スーパーの入口のじどうドアが、すーっと開きました。
2
スーパーの中でりょう君は、おかし売りばで、ビスケットやチョコレートを見ていました。
「あ、そうだ、そうだ。ぼくは、カレーのざいりょうをかいに来たんだ」
りょう君は、じぶんがなにをしに来たのか、思いだしました。
「ええと、紙はどこへいったかなあ」
犬にほえられたときに、おとしたのですから、見つかりません。
「おちついて、おちついて。こういう時は、でんわをすればいいんだ。けいたいでんわを持って来たから、だいじょうぶ」
おかあさんは、りょう君に何かあったらいけないと思って、けいたいでんわを持たせていました。
「いちばんをおせば、しぜんにかかるって言っていたよなあ」
「ぴぴぴぴぴぽぱぱ」
「あ、おかあさん? 何をかうんだったっけ?」
「ニンジン、いっぽんよ」
りょう君は、レジにニンジンを持って、行きました。
「ああ、またやっちゃった。お金を持って来るのをわすれちゃった」
3
「お金を持っていなくても、ニンジンはかえますよ。その手に持っている、カードがあれば」
レジの人が、そう言いました。りょう君は、けいたいでんわのほかに、カードもおかあさんから、あずかっていました。りょう君は、カードでニンジンをかうと、スーパーを出ました。
家でしんぱいしていた、おかあさんでしたが、スーパーについたりょう君の声がきけて、ちょっとあんしんしました。そこへまた、でんわがかかってきました。
「また、りょうかしら?」
おかあさんは、でんわのじゅわきをとりました。
「が、が、が、がね、がね」
と、言って、でんわはぷつんと切れました。いたずらでんわだったようです。ところが、また、でんわがかかってきました。
「が、がねをだせ。こ、こどもはごご」
おかあさんは、びっくりしました。ひょっとして、りょう君が、ゆうかいされたのでは、と思いました。りょう君に持たせた、けいたいでんわに、でんわをしました。すると、
「かねをだせ!」
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やはり、りょう君は、ゆうかいされたみたいです。おかあさんは、おとうさんの会社に、でんわをしました。
「これから、すぐかえるから。けいさつにも、でんわをしておくんだ」
おとうさんは、そう言うと、いそいで家にかえってきました。
「わたしが、りょうをひとりで、お使いに行かしたものだから。あああ、・・・」
おかあさんの目は、なみだでいっぱいになりました。けいさつの人は、まだひとりしか来ていませんでした。
「ほかの人は、来ないんですか?」
「はんにんが、この家をみはっているかもしれないから、めだたないように、集まることになっているんです」
しばらくすると、ゆうびんやさんにへんそうした人が、やって来ました。つぎに、しんぶんのしゅうきんの人です。たくはいで、にもつを持って来た人もいました。近所のかいらんを、持って来た人もいました。
そして、ぎゃくたんちきを、でんわにとりつけました。これをつけておけば、はんにんが、どこからでんわをかけているのか、わかります。
「プルルルル、プルルルル」
でんわが、かかってきました。
5
おかあさんが、でんわに出ました。
「も、もしもし。や、やまもとです」
「・・・」
何も声がしないで、でんわは切れました。
「おかあさん。こんど、かかってきたら、もう少し長く話をしてください。こどもが、ぶじかどうか、きいてみてください」
けいさつの人が、そう言いました。
そこへまた、でんわがかかってきました。
「おちついて、じゅわきをとってください。あいてが、何も話さなくても、話しつづけてください」
おかあさんは、じゅわきをとりました。
「もしもし。やまもとです」
「・・・」
「りょうは、ぶじなの? そこにいるの? りょうの声をきかして、おねがい。お金がほしいのなら、言って。いくらいるの?もしもし、もしもし」
「りょう。ぶじ。おかね」
「りょうは、りょうは、ぶじなのね? もしもし」
「・・・」
でんわは、切れてしまいました。
「ぎゃくたんちに、せいこうしました! はんにんのいるところが、わかりました!」
けいさつの人が、そうさけびました。
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「それで、はんにんのいる所は、どこなんですか?」
りょう君のおとうさんが、けいさつの人に、たずねました。
「からす山という山の中らしい。何か、こころあたりはないですか?」
「山のふもとに、りょうのおじいさんとおばあさんが、住んでいます」
「それじゃあ、れんらくをとてください。何かわかるかもしれません。からす山のけいさつには、こちらかられんらくをとって、おうえんをたのみます」
れんらくをうけたおじいさんたちは、びっくりしました。まごのためならと、じもとの青年だんに声をかけて、おうえんをたのみました。じもとのけいさつと青年だんとおじいさんは、山がりをすることにしました。
はんにんに気がつかれないように、みんなしずかに山を登りました。おじいさんは、犬のケンをつれて行きました。りょう君のにおいを知っている犬のケンですから、人間より見つけるのが早いかもしれません。
しばらくすると、おじいさんのズボンを、ケンがひっぱりました。やはり、ケンがさいしょに、はんにんを見つけたようです。
7
犬のケンのあとをついていくと、カラスがいました。
「はんにんは、カラスじゃったよ」
おじいさんは、りょう君の家にでんわをしました。りょう君のおとうさんは、どういうことなのか、まったくわかりませんでした。
「カラスが、でんわをしていたんじゃ。カラスのやつ、どこかで、りょうの持っていたけいたいでんわを、ひろったらしくて。でんわのボタンをおして、ぐうぜんそっちに、つながったようじゃ」
「どおりで、はんにんの声が、へんながらがら声だったんですね。それで、りょうは、今どこに?」
「それなんじゃが、本当のはんにんは、ここにはおらんかった。今から、ばあさんとそっちに行くから」
けいたいでんわをぬすんだ、はんにんはわかりましたが、りょう君をつれさった、はんにんがわかりません。けいさつは、スーパーからりょう君の家のあいだで、りょう君を見かけた人はいないか、しらべることにしました。
「ぼく、りょう君を見かけたよ」
りょう君を見たという子が、あらわれました。
8
りょう君を見かけたのは、りょう君の友だちのなかむら君でした。
「ぼくね、りょう君が、知らないおばさんといるのを見たよ。それでね、りょう君は、足から血を出していたよ」
「はんにんに、らんぼうされたのかい?」
「手を引かれて行くのを見ただけで、そこまでは知らない。でも、家にはいるところも見たよ」
「なに! はんにんの家を知っているのか。それじゃあ、その家をおしえてくれるかい?」
「いいよ」
なかむら君は、けいさつの人たちを、はんにんの家につれて行きました。
家の中に、はんにんがいるのかどうかは、外からはわかりません。りょう君のすがたも見えません。
「ただいま、はんにんの家の前にいます。おうえん、たのみます」
けいさつの人たちは、はんにんの家をとりかこみ、パトカーもたくさん来ました。はんにんの家の近所の人たちは、何があったのかと、さわぎはじめました。けいさつは、はんにんに気づかれて、りょう君がきずついてはいけないので、しずかにするように言いました。
9
はんにんの家というのは、りょう君の友だちのさとう君ちでした。
じつは、りょう君は、かえり道でまた犬にほえられて、あわてて走ったので、ころんでしまいました。けがをしたりょう君を、さとう君のおかあさんが見つけて、助けました。
けいたいでんわは、ころんだときに落としたもので、カラスが見つけて、持ちさったのでした。
「あ、りょう君が、にかいのまどの所に!」
なかむら君は、まどをゆびさしました。
「りょう君は、ぶじだったか。しかし、早く助けださないと、はんにんが何をするかわからん。すきがあったら、はんにんにとびかかる、じゅんびをしておかなくては」
けいさつのぶちょうが、そう言いました。
「あ、ベランダにウサギがいるよ!」
「はんにんは、ウサギをかっているんだな。しかし、ウサギは、このじけんには、かんけいないから、どうでもいいことだ」
けいさつのぶちょうが、そう言った時、りょう君とさとう君のおかあさんが、家からでてきました。
「それ、今だ! はんにんをつかまえろ!」
けいさつかんたちが、いっせにさとう君のおかあさんに、とびかかりました。
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りょう君とさとう君のお母さんがでてきて、そのあとから、さとう君もでてきました。
「何をするんだよお! ぼくのお母さんに」
「そのおばさんは、さとう君のおかあさんだよ。ぼくの足のきずをみてくれたんだよ」
いったいどうなっているんだと、みんなふしぎに思いましたが、だんだんなぞがとけてきました。
りょう君、さとう君、なかむら君は、みんな友だちでしたが、さいきんてんこうしてきた、さとう君の家を、りゅう君となかむら君は、まだ知らなかったのでした。
しばらくして、りゅう君のおとうさんとおかあさんが、かけつけました。
「みなさまに、大変ごめいわくをおかけして、もうしわけありませんでした。おわびといってはなんですが、これからカレーパーティーを開きますので、来ていただけないでしょうか?けいさつのかたがた、ご近所のかたがた、いかがでしょうか?」
「いいぞ! カレーパーティーをしよう!」
「さんせい! さんせい!」
みんな、カレーパーティーにさんせいしました。さあ、これからが、おおいそがしです。百人のカレーパーティーのはじまりです。
11
小さなりゅう君の家に、百人の人が集まり、てんやわんやのおおさわぎです。うたあり、ダンスあり、どうろまではみだしての大パーティーです。
りゅう君のおじいさんとおばあさんも、かけつけました。もちろん、犬のケンもいっしょです。
やがて、みんな、おなかがいっぱいになって、しあわせな気持ちになりました。夕焼けにそまって、みんなの顔も赤くなりました。
りゅう君のおじいさんが、言いました。
「ところで、こんどのじけんのはんにんは、いったいだれだったんじゃ?」
りゅう君は、言いました。
「はんにんは、ニンジンだよ」
「じゃあ、そのはんにんのニンジンとやらを、つかまえにいくとするか」
「はんにんのニンジンは、さとう君ちのにかいだよ」
りゅう君、おじいさん、さとう君、なかむら君の四人は、長くかげをのばしながら、ニンジンいる家へ向いました。でも、このはんにんさがしは、しっぱいします。もう、はんにんのニンジンは、消えていなくなっているのですから。
さとう君ちのウサギが、こっそり食べてしまったというわけ。
参考:口演童話「はんにんは、だれだ?」
口演童話