物語「なぞなぞの森」
ある日、トラのトラ吉が、森に迷い込んでしまいました。
「うぇーん。ぼく迷子になっちゃったよー。うぇーん」
そのとき、誰かの声がしました。
「(誰だい? 森で迷子になって泣いているのは)」
姿は見えませんでした。でも、この森から抜け出したかったトラ吉は、泣きながらこう言いました。
「ぼ、ぼく、トラのトラ吉。ねえ、ここはどこ? 森の出口はどこ?」
「(ここは、『なぞなぞの森』。この森から抜け出すには、森の番人のなぞなぞを解かなければ、抜け出すことは出来ない)」
「森の番人って、どこにいるの?」
「(何を隠そうこの私が、森の番人だ)」
「じゃあ、早くなぞなぞ出してよー。早く家に帰りたいよー」
「(では、第1問。私はいったい誰でしょう)」
「そんなの簡単だよ。森の番人でしょう?」
「(そうではなく、森の番人である私は、いったい誰でしょう。ヒントは、この森の木をいつもつねっている私です)」
「そんなのわからないよー。早く帰りたいよー」
「(よーく考えてごらん。木をつねっているんだよ)」
「木をつねっている。木をつねる。木、つねる。わかった。きつねだ」
「(正解)」
そう言って姿を現したのは、大きな口に真っ赤な舌をだらりと垂らした狼でした。
「あれー、きつねじゃなくて、狼に見えるけど」
誰が見たって、狼に間違いありません。トラ吉がいぶかしく思っていると、その狼はどろろんぱっと、きつねに変身しました。忍者の格好をしたきつねでした。
「では、第2問」
「えっ、まだあるの? 早く帰りたいよー」
トラ吉の願いも聞かず、きつねは言葉を続けました。
「お前が家に帰ったはいいが、家には誰もいないとしよう。そこに鳥がやってくるが、どんな鳥がやってきたか、わかるか?」
「わからないようー、そんなの」
「よーく考えてごらん。家には誰もいないんだよ」
「誰もいないって、ぼくだけってこと? ぼくしかいないんだよね。ぼくひとりなんだよね。そうか、やってきた鳥は、ひとり」
「大正解」
トラ吉は、小躍りしました。
「やったー。じゃあ、森の出口教えて」
「第3問」
「えっ、まだあるの?」
すると、きつねは写真を出してきました。写真は、熊のパパとママのようです。
「“パパママ”と言うとくっつくけど、“お父さんお母さん”と言うとくっつかないもの、なーんだ?」
「写真は、熊さんだけど、何か関係あるの?」
「それは関係ない」
「むつかしいなあ。考えてもわからないよ」
「今度は考えるんじゃなくて、実際“パパママ”“お父さんお母さん”と言うんだ」
トラ吉は、きつねに言われたとおりに言ってみました。
「パパ、ママ、お父さん、お母さん。あ、くっついたり離れたりする。そうか、パパママって言ってくっつくのは、くちびる」
「よくわかったね。第4問」
「いったい何問あるの? いつまでたってもこの森から出られないじゃないの」
「これが最後の問題。さて、熊の夫婦には、二人の男の子がいました」
きつねは、兄弟の写真を出しました。
「熊の兄弟は、とってもよく似ていました。でも、どちらかがお兄さんで、どちらかが弟です。ではいったい、どちらの熊が年上のお兄さん熊でしょうか?」
「えーっ。何かヒントないの?」
きつねは、黙ったままでした。しかたなく、トラ吉はまじまじと写真を見ました。
「本当によく似ている。ところで、ねえねえ、さっきからちょっと気になっていたんだけど、あの木に“出口”って書いてあるけど、あっちに行けば、この森から出られるんじゃないの」
トラ吉は、森の木の一本に、“出口”の表示を見つけて指差しました。
きつねは、そっけなく言いました。
「じゃあ、試しに行ってみれば」
「行ってみる」
トラ吉は、出口と書いてある木のほうに歩いていきました。どんどん、どんどん歩いていきました。このままこの森を抜けられるような気がしました。4問目の答えなんか、もうどうでもよくなりました。自然と足がはやくなり、どんどん、どんどん歩いていきました。すると、遠くに誰かの姿が見えました。よく見ると、それは、きつねでした。ぐるっと一周して、元に戻ってきました。
「あれ、元に戻ってきちゃった」
「ここは、なぞなぞの森。なぞなぞに正解した者だけが、この森から抜け出せるんだ。さあ、第4問の答えは?」
トラ吉は、もう一度写真を覗きこみました。
「どちらもよく似ているけど、よーく見ると、目の位置が違う。左の熊さんのほうが、目が上についている。目が上ってことは、・・・、目上ってこと。わかった。左の熊さんが目上で、年上のお兄さん熊だ」
「これでお前は自由だ。残念だが、さっさと家に帰るがいい」
トラ吉は、家に帰れると思うとほっとしました。
「ところで、きつねさん、どうして森の番人になったの?」
「そ、それは、ちょっと、・・」
きつねは、何かを隠している口ぶりでした。
「ひょっとして、自分ではなぞなぞが解けないので、この森から出られないんじゃないの?」
「そ、そんなんじゃないよ。なぞなぞの森の番人は、なぞなぞの専門家なんだぞ。解けないなぞなぞなんかあるものか」
「じゃあ、第1問。森には木が何本あるでしょうか?」
「そんなの数えたことないからわからないよ」
「ぶっぶー」
トラ吉は、落ちていた木の枝で、地面に漢字で“森”と書きました。
「森って字は、三本の木で出来ている。だから、答えは3本」
「あ、そうか。しまった」
「第2問。森には木がたくさんあるけど、森の郵便局で売っている木は何でしょう?」
しょんぼりしていたきつねでしたが、今度は自信を持って言いました。
「そんなの簡単だ。切手だろう」
「ぶっぶー」
「どうして?」
「郵便局で売っている木は、はがきでした」
「あ、そうか。しまった」
「第3問。とてもすばらしい木ってなーんだ?」
「そりゃあ、とても大きくて、立派な木に決まっているだろう」
「答えは、ステッキ」
「あ、そうか。しまった。あと1問しかない。ショック!」
「では、最後のなぞなぞです。ショックを受けて、元気がなくなった時に出てくる栗は何でしょう?」
きつねは、もうあと1問しかないと思うとあせりはじめました。
「ショックを受けて出てくる栗。そうそう、今ショックを受けたんだから、こんなときに出てくる栗と言えば、えーと、くりくりと、えーと出てくる栗は、しっくり。しっくりじゃ、しっくりこないなあ。しゃっくり。いやいや、しゃっくりじゃおかしいなあ。あー・・・」
きつねの頭の中は、まるでミツバチの集団が大暴れしているようでした。
「ぶっぶー。時間切れ。じゃあ、ぼくはこの森から出て行くからね。ばいばい」
トラ吉は、そう言って、すたこらさっさと森を出て行きました。
残されたきつねは、
「あーあ、また森の番人をしなくっちゃいけない。もう、がっくり。がっくり? あ、そうか、今の答えは、がっくり。とほほほほ」
きつねは、そのまま頭を抱えて、地面にしゃがみこんでしまいました。
ところで、なぞなぞって、本当に役に立つんだぞ。なぞなぞの森に迷い込んだら、特にね。
(パネルシアター「なぞなぞの森」の原作です)
森のネズミのなぞなぞあそび
岡野 薫子 (著), 上条 滝子 (イラスト)
森のネズミちゃんは、なぞなぞあそびが大すきです。きょうは、山荘の女の子や小さな男の子も参加して、なぞなぞ大会がおこなわれます。ネズミちゃんたちの、なぞなぞの答えは、みーんな森の中にかくれています。さあ、答えをさがして、みんんなでなぞなぞに挑戦だ。
単行本: 95ページ
出版社: ポプラ社 (1989/11)
商品パッケージの寸法: 21.4 x 15 x 1.8 cm
参考:物語「なぞなぞの森」
口演童話
ある日、トラのトラ吉が、森に迷い込んでしまいました。
「うぇーん。ぼく迷子になっちゃったよー。うぇーん」
そのとき、誰かの声がしました。
「(誰だい? 森で迷子になって泣いているのは)」
姿は見えませんでした。でも、この森から抜け出したかったトラ吉は、泣きながらこう言いました。
「ぼ、ぼく、トラのトラ吉。ねえ、ここはどこ? 森の出口はどこ?」
「(ここは、『なぞなぞの森』。この森から抜け出すには、森の番人のなぞなぞを解かなければ、抜け出すことは出来ない)」
「森の番人って、どこにいるの?」
「(何を隠そうこの私が、森の番人だ)」
「じゃあ、早くなぞなぞ出してよー。早く家に帰りたいよー」
「(では、第1問。私はいったい誰でしょう)」
「そんなの簡単だよ。森の番人でしょう?」
「(そうではなく、森の番人である私は、いったい誰でしょう。ヒントは、この森の木をいつもつねっている私です)」
「そんなのわからないよー。早く帰りたいよー」
「(よーく考えてごらん。木をつねっているんだよ)」
「木をつねっている。木をつねる。木、つねる。わかった。きつねだ」
「(正解)」
そう言って姿を現したのは、大きな口に真っ赤な舌をだらりと垂らした狼でした。
「あれー、きつねじゃなくて、狼に見えるけど」
誰が見たって、狼に間違いありません。トラ吉がいぶかしく思っていると、その狼はどろろんぱっと、きつねに変身しました。忍者の格好をしたきつねでした。
「では、第2問」
「えっ、まだあるの? 早く帰りたいよー」
トラ吉の願いも聞かず、きつねは言葉を続けました。
「お前が家に帰ったはいいが、家には誰もいないとしよう。そこに鳥がやってくるが、どんな鳥がやってきたか、わかるか?」
「わからないようー、そんなの」
「よーく考えてごらん。家には誰もいないんだよ」
「誰もいないって、ぼくだけってこと? ぼくしかいないんだよね。ぼくひとりなんだよね。そうか、やってきた鳥は、ひとり」
「大正解」
トラ吉は、小躍りしました。
「やったー。じゃあ、森の出口教えて」
「第3問」
「えっ、まだあるの?」
すると、きつねは写真を出してきました。写真は、熊のパパとママのようです。
「“パパママ”と言うとくっつくけど、“お父さんお母さん”と言うとくっつかないもの、なーんだ?」
「写真は、熊さんだけど、何か関係あるの?」
「それは関係ない」
「むつかしいなあ。考えてもわからないよ」
「今度は考えるんじゃなくて、実際“パパママ”“お父さんお母さん”と言うんだ」
トラ吉は、きつねに言われたとおりに言ってみました。
「パパ、ママ、お父さん、お母さん。あ、くっついたり離れたりする。そうか、パパママって言ってくっつくのは、くちびる」
「よくわかったね。第4問」
「いったい何問あるの? いつまでたってもこの森から出られないじゃないの」
「これが最後の問題。さて、熊の夫婦には、二人の男の子がいました」
きつねは、兄弟の写真を出しました。
「熊の兄弟は、とってもよく似ていました。でも、どちらかがお兄さんで、どちらかが弟です。ではいったい、どちらの熊が年上のお兄さん熊でしょうか?」
「えーっ。何かヒントないの?」
きつねは、黙ったままでした。しかたなく、トラ吉はまじまじと写真を見ました。
「本当によく似ている。ところで、ねえねえ、さっきからちょっと気になっていたんだけど、あの木に“出口”って書いてあるけど、あっちに行けば、この森から出られるんじゃないの」
トラ吉は、森の木の一本に、“出口”の表示を見つけて指差しました。
きつねは、そっけなく言いました。
「じゃあ、試しに行ってみれば」
「行ってみる」
トラ吉は、出口と書いてある木のほうに歩いていきました。どんどん、どんどん歩いていきました。このままこの森を抜けられるような気がしました。4問目の答えなんか、もうどうでもよくなりました。自然と足がはやくなり、どんどん、どんどん歩いていきました。すると、遠くに誰かの姿が見えました。よく見ると、それは、きつねでした。ぐるっと一周して、元に戻ってきました。
「あれ、元に戻ってきちゃった」
「ここは、なぞなぞの森。なぞなぞに正解した者だけが、この森から抜け出せるんだ。さあ、第4問の答えは?」
トラ吉は、もう一度写真を覗きこみました。
「どちらもよく似ているけど、よーく見ると、目の位置が違う。左の熊さんのほうが、目が上についている。目が上ってことは、・・・、目上ってこと。わかった。左の熊さんが目上で、年上のお兄さん熊だ」
「これでお前は自由だ。残念だが、さっさと家に帰るがいい」
トラ吉は、家に帰れると思うとほっとしました。
「ところで、きつねさん、どうして森の番人になったの?」
「そ、それは、ちょっと、・・」
きつねは、何かを隠している口ぶりでした。
「ひょっとして、自分ではなぞなぞが解けないので、この森から出られないんじゃないの?」
「そ、そんなんじゃないよ。なぞなぞの森の番人は、なぞなぞの専門家なんだぞ。解けないなぞなぞなんかあるものか」
「じゃあ、第1問。森には木が何本あるでしょうか?」
「そんなの数えたことないからわからないよ」
「ぶっぶー」
トラ吉は、落ちていた木の枝で、地面に漢字で“森”と書きました。
「森って字は、三本の木で出来ている。だから、答えは3本」
「あ、そうか。しまった」
「第2問。森には木がたくさんあるけど、森の郵便局で売っている木は何でしょう?」
しょんぼりしていたきつねでしたが、今度は自信を持って言いました。
「そんなの簡単だ。切手だろう」
「ぶっぶー」
「どうして?」
「郵便局で売っている木は、はがきでした」
「あ、そうか。しまった」
「第3問。とてもすばらしい木ってなーんだ?」
「そりゃあ、とても大きくて、立派な木に決まっているだろう」
「答えは、ステッキ」
「あ、そうか。しまった。あと1問しかない。ショック!」
「では、最後のなぞなぞです。ショックを受けて、元気がなくなった時に出てくる栗は何でしょう?」
きつねは、もうあと1問しかないと思うとあせりはじめました。
「ショックを受けて出てくる栗。そうそう、今ショックを受けたんだから、こんなときに出てくる栗と言えば、えーと、くりくりと、えーと出てくる栗は、しっくり。しっくりじゃ、しっくりこないなあ。しゃっくり。いやいや、しゃっくりじゃおかしいなあ。あー・・・」
きつねの頭の中は、まるでミツバチの集団が大暴れしているようでした。
「ぶっぶー。時間切れ。じゃあ、ぼくはこの森から出て行くからね。ばいばい」
トラ吉は、そう言って、すたこらさっさと森を出て行きました。
残されたきつねは、
「あーあ、また森の番人をしなくっちゃいけない。もう、がっくり。がっくり? あ、そうか、今の答えは、がっくり。とほほほほ」
きつねは、そのまま頭を抱えて、地面にしゃがみこんでしまいました。
ところで、なぞなぞって、本当に役に立つんだぞ。なぞなぞの森に迷い込んだら、特にね。
(パネルシアター「なぞなぞの森」の原作です)
森のネズミのなぞなぞあそび
岡野 薫子 (著), 上条 滝子 (イラスト)
森のネズミちゃんは、なぞなぞあそびが大すきです。きょうは、山荘の女の子や小さな男の子も参加して、なぞなぞ大会がおこなわれます。ネズミちゃんたちの、なぞなぞの答えは、みーんな森の中にかくれています。さあ、答えをさがして、みんんなでなぞなぞに挑戦だ。
単行本: 95ページ
出版社: ポプラ社 (1989/11)
商品パッケージの寸法: 21.4 x 15 x 1.8 cm
参考:物語「なぞなぞの森」
口演童話